2018年11月09日 1550号

【自民党改憲人事は安倍の焦り/退陣へ一気に追いつめる時】

 安倍首相は、政権維持の最後の砦≠ニして、改憲の旗を掲げ続けている。党人事で安倍改憲派を重用し、あわよくば臨時国会中にも自民党単独改憲発議に突き進む構えだ。

憲法擁護義務も踏みにじる

 10月24日、臨時国会冒頭の所信表明演説で、安倍首相は改憲の意思をあけすけに表明した。以下、引用する。
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 まさに歴史の転換点にあって、平成の、その先の時代に向かって、日本の新たな国創りを、皆さん、共に、進めていこうではありませんか。

 国の理想を語るものは憲法です。憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示すことで、国民の皆様の理解を深める努力を重ねていく。
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 天皇譲位による改元を「歴史の転換点」とし、「新たな国創り」を呼びかける。天皇の代替わりに改元するのは、明治以降の「天皇は時をも支配する」という天皇神格化によるものだ。しかも、譲位を契機に改憲を呼びかける。憲法の国民主権とは無縁な発想だ。「改元」は元号法による年の表記変更にすぎず、多くの人びとにとって特段何かが変わるわけでもない。

 そして「国の理想を語るものは憲法」と続く。とんでもない。憲法は国民による権力者・政府に対する命令書であり、政府が果たすべき義務だ。「理想」として棚上げするのは、立憲主義を否定する責任逃れだ。

 最大の問題点は安倍が所信表明演説で改憲を呼びかけたことだ。所信表明演説は、行政府の長が議会で所信(自らの考え)を表明するものだ。安倍は自民党総裁としてではなく、内閣総理大臣として改憲論議を進めるよう議会にハッパをかけた。憲法第99条が定める憲法尊重擁護義務を臆面もなく踏みにじる行為だ。敗戦から70年にわたり国民が支持した憲法を変える必要はない。憲法を踏みにじる安倍を倒し、戦争と貧困のグローバル資本のための政策から、憲法規定を実現する政策へと転換させねばならない。

戦争国家のための改憲策動

 安倍が考える改憲は、殺し殺される戦争国家づくりの一環だ。

 焦点は憲法第9条改憲と緊急事態条項の創設にある。

 今年3月に自民党憲法改正推進本部が示した「たたき台」は新たに9条の2を起こし、自衛隊を書き込む。
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9条の2

1項 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。

2項 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
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 「前条の規定」とは、戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認を定めた第9条のことだ。

 自民党「たたき台」は、第1項で「自衛の措置」=交戦権と戦力保持を認める。その自衛隊の行動範囲は法律次第。2項と戦争法を合わせれば、集団的自衛権行使は、時の内閣の解釈ではなく、憲法上も可能となる。「国会の承認その他の統制」は、国会以外の機関の承認のみで武力行使を可とする余地を意図的に作っている。安倍は、現在の憲法解釈の範囲での改憲であることを強調するが、全くの嘘だ。

内閣の一存で人権制限

 「緊急事態条項」創設は独裁に道を開くものだ。「大規模災害等で選挙ができなかったときに、任期延長を可能とすべき」というのが自民党の表向きの理由だ。だが、自民改憲草案の緊急事態条項は、内閣への権力集中を実現する。

 緊急事態が宣言されると、内閣は法律と同一の効力を有する政令を発することができる。大日本帝国憲法の緊急勅令は、議会が承認しなければ将来に向かって効力が失われるが、自民改憲草案では国会の承認が得られなかった場合の規定はなく、効力が残ることとなる。緊急事態下の政令制定対象も制限されておらず、人権制限を狙ったものであることは間違いない。大規模災害等には、戦争法の「存立危機事態」は当然含まれる。戦争遂行のための国民統制として機能する。

強行路線は焦りの表れ

 安倍は今回の内閣改造で9条改憲シフトを敷いた。

 安倍に忠誠を誓う下村博文元文科大臣を自民党憲法改正推進本部長に、常設の党最高意思決定機関とされる総務会長に加藤勝信前厚労相を配置した。衆院憲法審査会自民党筆頭幹事には、下村が自ら就任。一方で、与野党協調路線≠とってきた中谷元・元防衛相、船田元・元経企庁長官を幹事から外した。「党の条文案を衆参両院の憲法審査会で説明する」=改憲原案として審査会提出を強行し、党内慎重派≠笆党をねじ伏せてでも、9条改憲発議に突き進める布陣をしいた。

 安倍は、所信表明演説で露骨に改憲論議の推進を迫った。これまで党総裁と首相の立場を使い分けごまかしてきたが、一向に進まない改憲論議に業を煮やしたのだろう。伊吹文明・元衆院議長は「(改憲発議が可能な)3分の2(近く)を持っているのに一体何をしているんだっていう焦燥感が安倍晋三の腹の中にはやっぱりあるんだ」と本音を指摘する(10/26朝日)。

 憲法調査会への自民党案提出を許さず、改憲策動とともに安倍を葬り去るときだ。

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