2018年11月09日 1550号


【弱者の富を巨大資本と富裕層に】

 安倍首相は10月15日、来年10月に消費税を10%へと引き上げることを表明。所信表明演説では「経済に影響を及ぼさないよう、あらゆる政策を総動員する」と強調した。さまざまな「対策」を並べ、目玉としてクレジットカードなどによる決済時のポイント還元を宣伝するが、カードを使いこなし大量に買い物できる人への返金が多くなるにすぎない。不公平は明らかだ。消費増税が市民生活を直撃する事態は変わらない。改めて消費税の根本的問題はなにか。3回にわたって考える。

納税義務を負うのは誰?

 私たちは買い物するたびに消費税分のお金も支払っている。このようになじみがあるにもかかわらず、消費税そのものの仕組みはあまり理解されていない。税率8%はみな知っているが、内容が複雑な税制だからだ。

 100円の品を買うとき、消費税込みの108円を支払う。その販売者が免税業者であった場合、消費税分の8円を返還請求できるだろうか。できない。消費者はあくまで108円の商品を買ったにすぎないからだ。消費税は間接税である。間接税は、納税義務者と実際に税を負担する者が別々であり、事業者が納税義務を負う。消費税は、事業者によって税額分が商品の価格に転嫁されることを予定している税である。

 事業者(とりわけ中小業者)は、客に商品を買ってもらうために消費税分を割り引くこともある。その場合も事業者には納税義務があり、消費税を支払わなければならない。つまり、事業者は損を覚悟のうえで割り引いている。

 力関係で弱い中小の業者にとって、問題は深刻だ。取引で消費税分を転嫁できなければ常に赤字を強いられる。たとえば、宿泊・飲食業では事業者の70・6%が転嫁できていない(全商連「2018年上期営業動向調査」)。法人税などと違い、消費税は赤字を理由に免税されることはなく、赤字であっても納税義務がある。そのため、国税の滞納で最も多いのが消費税だ。

貧困層を直撃する逆進性

 消費者にとって、もっとも深刻な問題は逆進性である。

 食料品など生活に不可欠なものの必要度では、金持ちも貧乏人もその差はそれほど大きくない。だが、同じ商品を年収2000万円の人と年収200万円の人がそれぞれ買った場合、負担の度合は全く違う。貧しい層の負担が重くなることを逆進性という。

 消費税増税推進論者は、金持ちは高いものを買うので消費税を多く払うから逆進性は深刻ではない、と屁理屈をこねる。食料品は8%すえおきなど軽減税率を導入するので逆進性は改善される、ともっともらしく主張する。

 総務省「全国消費実態調査」(2014年)をもとにした試算では、年収2000万円以上の世帯の消費税負担率は1・5%だが、年収200万円未満の世帯の負担率は8・9%。税率を10%に引き上げた場合(軽減税率も適用)も、前者は1・8%、後者は10・5%と6倍もの差がある(10/19しんぶん赤旗、年収200万円未満で負担率が消費税率を超えるのは貯蓄を取り崩しているため)。

 では、軽減税率で逆進性は緩和されるのだろうか。軽減税率を導入したところで逆進性に変化はほとんどない(図1参照)。軽減税率で逆進性を緩和するという主張はウソだ。「消費税は無差別課税だから、消費した人の負担能力を配慮することはできない」(三木義一『日本の税金 第3版』)のである。


出所)「民間税調 税制検討No.1 『消費税率10%と家計負担−軽減税率を含む』」(2015年6月9日)

消費税は収奪のシステム

 法人税や所得税は、利益に対する税なので不景気になれば税額が少なくなる。それに対し、消費税は取引に対する税なので不景気であっても税額が安定している。政権にとって消費税は便利で頼れるもの≠ニなる。ここに執拗な引き上げ策動の根拠がある。

 消費税とはなにか。一言でいえば「弱者の富をまとめて巨大資本や富裕層に移転するための収奪システム」だ。「悪魔の税制」(斎藤貴男『ちゃんとわかる消費税』)の名こそふさわしい。

 商業新聞各社は、新聞購読料を軽減税率の対象にすることを要求し、実現させた。それは、メディアが消費税引き上げの問題には黙りこむことを意味し、現実にそうなっている。政府・メディアによる消費増税やむなし≠フ誘導を許してはならない。 
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