2018年11月16日 1551号

【日鉄元徴用工裁判 日本企業の法的責任、損害賠償を認める 歴史的な韓国大法院判決】

 10月30日、韓国大法院(最高裁)は、日本製鉄(現新日鐵住金)が植民地支配下で行った強制連行・強制労働の被害者である元徴用工の損害賠償を認めた。これは植民地支配の暴力である強制連行・強制労働を行った日本企業の法的責任を認め被害者に損害賠償と権利回復を命じた歴史的かつ画期的な判決である。

起点は97年の提訴

 裁判は、1997年12月、日本製鉄大阪工場に強制連行された元徴用工(呂運澤<ヨウンテク>さん、申千洙<シンチョンス>さん)の2人が大阪地裁に未払い賃金の支払いおよび謝罪・補償を求めて日本政府と新日鉄(現新日鐵住金)を訴えたことに始まる。原告、そして私たち日本製鉄元徴用工裁判を支援する会など日韓の支援者の闘いにもかかわらず2003年、日本の最高裁は上告を棄却。敗訴となった。

 そのため、後に名乗りを上げた被害者を含め原告4人が2005年、韓国の司法に「法の正義」を求めて再び裁判を提起した。韓国でも下級審では請求が棄却されたが、2012年5月、大法院が「1965年の日韓請求権協定は一般的な財産権処理の協定であり植民地支配下の強制労働は韓国の憲法に違反し無効」とし、被害者の損害賠償請求権を認めて審理を差し戻した。2013年7月の差戻審では被害者1人当たり1億ウォン(約1千万円)の損害賠償が認められたが、新日鐵住金が上告。再び大法院で審理されることとなった。

 日本での提訴から21年目の今年5月、大法院前長官と韓国外交部との裏取引により審理が遅延していたことが暴かれて全員合議の大法廷での審理が再開し、今回の判決を迎えた。判決は「請求権協定の交渉過程で日本政府は植民地支配の不法性を認めないまま、強制動員被害の法的賠償を徹底的に否認し、これに伴い韓日両国の政府は日帝の韓半島支配の性格に関して合意に至ることができなかった。このような状況で強制動員慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれたと見るのは難しい」として日本の植民地支配下の反人道的行為について被害者の法的救済を図り、新日鐵住金に対し各原告に1億ウォンを支払うよう命じた判決が確定したのである。

時間は残されていない

 しかし、この日までに4人の原告のうち3人が亡くなった。呂運澤さんは2013年12月、申千洙さんは2014年10月、金圭洙(キムギュス)さんは判決直前の今年6月。法の正義が実現されることを待ち望みながらこの日を迎えることができなかった。唯一の生存者である李春植(イチュンシク)さんは「私を入れて4人なのに、1人で判決を受けたことがとても辛くて悲しい。一緒に判決を聞くことができなかったことが寂しくてならない」と判決後のインタビューに答えた。

 呂運澤さんは「日本製鉄は法とか外交協定のような政治的な決定の後ろに隠れずに堂々と前に出て、この問題について責任をとって下さい」と悲痛な言葉を残して亡くなった。2012年の大法院判決後に新日鐵住金を訴えた他の裁判原告も、90歳前後の高齢の被害者ばかりでもはや時間は残されていない。

政府解釈までわい曲

 ところが安倍首相は「国際法に照らしてありえない判決」、河野外相は「日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆す」など歴史をゆがめる暴言で韓国側が「条約違反」を犯しているかのように世論誘導を行っている。

 そもそも1965年日韓条約・請求権協定は、米国が日米韓軍事同盟強化のために日韓両政府を仲介し、日本が植民地支配責任も認めず賠償についても曖昧な5億ドルの「独立祝金」でごまかして締結した政治的妥協の産物であった。個人請求権は2国間条約では奪うことのできない権利である。それは、日本政府自身が条約締結と同時に韓国人の個人請求権を消滅させるための国内法(日韓請求権協定第2条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律)を制定した事実からも明らかなように、請求権協定で個人請求権は消滅しないというのが日本政府の公式見解だ。韓国の司法が日本企業に賠償を命じた判決について、日本政府側からその損害が請求権協定に含まれていたかどうか協定の解釈に疑義があるのであれば「協議」すればよいだけのことだ。

 日本政府は、韓国政府が「適切な措置」を取らない場合、ICJ(国際司法裁判所)への提訴や請求権協定第3条に基づく仲裁委員会の設置を求めるとしている。だが、植民地支配下の暴力に対する現在の国際人権法の解釈に基づけば、むしろ窮地に追い込まれるのは日本政府である。

 日本のメディアはこぞって「日韓関係を根底から覆す」と判決を批判する。政府のでたらめな解釈そのままの認識不足と政権への忖度(そんたく)こそ、真の日韓友好・連帯の基盤を揺るがすものだ。

 安倍政権は、「徴用工」を「旧朝鮮半島出身労働者」に言い換えて強制性を否定し、企業が独自に補償に応じないように説明会まで開催するなど、判決の意義を低めようと躍起だ。被害者に時間は残されていない。もうこれ以上被害者を不当な「法解釈論争」の犠牲者としてはならない。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会・中田光信)

残された時間はありません 新日鐵住金はただちに被害者に補償せよ!(要旨)

 2018年10月30日
 日本製鉄元徴用工裁判を支援する会
 太平洋戦争犠牲者補償推進協議会
 民族問題研究所

 本日、韓国大法院は、太平洋戦争中に日本製鉄(現新日鐵住金)に強制連行・強制労働させられた元徴用工被害者が訴えた事件について、最終判断を示しました。

 今回の裁判は、植民地支配下において日本企業が行った強制労働(奴隷労働)に対する法的責任を認めるかどうか、元徴用工被害者の人権回復を法的救済によって図るかどうか、つまり植民地支配によって奪われた個人の尊厳を回復するかどうかを問う裁判でした。

 私たちは、今回の判決を全面的に歓迎します。新日鐵住金は、ただちに判決に従い原告らに賠償金を支払い、訴外の被害者たちに対しても救済策を実施しなければなりません。同時にこれまで日韓条約で全て解決済みを主張してきた日本政府に対しては判決を真摯に受け止め強制労働問題の全面的解決に向けた施策を行うことを強く求めます。

 しかし判決は遅すぎました。4名の原告のうち3名がすでに亡くなり、後続の裁判原告も高齢の被害者ばかりです。被害者にもはや時間は残されていません。新日鐵住金に判決に従いただちに被害者への補償を行うことを強く求めます。

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