2018年11月16日 1551号

【どくしょ室/日本が売られる/堤未果 著 幻冬舎新書 本体860円+税/公共を食い荒らすグローバル資本】

 『貧困大国アメリカ』(岩波新書、2008年)で、米国の格差社会の原因は食料、教育、医療など民衆の生活をグローバル資本が食い荒らす新自由主義にあることを明らかにした著者が、日本の現実にメスを入れたのが本書である。

 「世界で一番企業が活躍しやすい国」をスローガンに掲げる安倍内閣は、グローバル資本の要請に応え、国家戦略特区を突破口に上からの「規制改革」を推し進めている。グローバル資本が日本の公共事業をはじめあらゆる分野に参入できる条件が急速に整えられようとしている。

 今年5月の法「改正」により、地方議会の承認なしに公共水道の運営権を企業に売却することが可能となった。民営化推進派は「民間企業のノウハウを活かし、効率の良い運営と安価な水道料金を!」とスローガンを叫ぶ。しかし、公営から企業運営になった途端、水は「値札のついた商品」になる。世界銀行の圧力で水道民営化を進めた南米諸国では水道料金が大幅に上がり、貧困地区は深刻な水不足に陥り、再公営化が進んでいる。日本の民営化はその動きに逆行している。

 民営化路線を突っ走る維新吉村市長の大阪市は、早速6月1日から検針および料金徴収業務を、世界三大水企業であるフランスのヴェオリア社日本法人に委託した。同社は、福島原発事故汚染土を道路など公共事業に再利用するという環境省の方針を受け、汚染土処理の企業を買収し、日本の原発輸出国の汚染土輸入も視野に入れた事業参入もねらっているという。

 外国人労働者の受け入れ拡大もグローバル資本の要請に応えたものだ。高齢大国日本の介護事業は、格好の投資対象である。介護事業が優良な投資対象となるためには人件費カットが不可欠であり、外国人労働者受け入れの拡大が必要とされたのだ。国家戦略特区諮問会議で外国人労働者拡大を強く主張したのは、人材派遣会社パソナ会長の竹中平蔵だ。パソナはすでに海外からの介護職員受け入れを事業化している。

 臨時国会の最重要法案とされる入国管理法「改正」案は、安く使い捨てできる外国人労働者という「商品」を大量輸入しようとするものだ。年間1万人以上が「失踪」するという技能実習生の在留期間も大幅に延長されるという。技能実習生などの低賃金、長時間労働、人権無視の実態は放置されたままである。

 本書では、「水」「労働」のほかにも「農業・食」「医療」「教育」「土地・自然」などあらゆる分野が、資本の目先の利益のために「商品」として売られようとしていることに警鐘を鳴らす。同時に著者は、この強欲資本主義から抜け出すには、売られたものは取り返せ(第3章)≠ニ「協同組合」などの対案、そして市民の行動が必要と結んでいる。     (N)
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