2018年11月23日 1552号

【軍事費より被災者の人権回復を/尊厳守るスフィア基準で】

難民キャンプ以下の避難所

 安倍政権は臨時国会に災害対策として総額9356億円の補正予算案を提出。11月7日可決された。このうち被災者の「生活再建」には439億円、「生業支援」として農業用ハウスや農地・農業用水利施設復旧に充てられる予算は648億円。合わせても、被災者への直接支出とされる額は全体の1割強、1100憶円に過ぎない。一方「災害救助」名目での自衛隊予算上乗せは549億円で「生活再建」を上回る。災害救助は自衛隊の公式任務として予算があり、上乗せに根拠はない。災害に便乗した軍事費増だ。

 災害対策、とりわけ避難時の対応に予算を割かない日本政府は、「災害関連死」を生んでいる。

 2016年の熊本地震で「災害関連死」と認定された人は211人に上る。家屋倒壊など地震が直接の原因で亡くなった人50人の4倍を超えている。冷暖房、風呂、調理設備、間仕切りはなく、トイレも少ない学校の体育館といった劣悪な避難所の環境が根本原因だ。

 日本の避難所は「難民キャンプ以下」と言われる。国際的な被災者救援の基準である「スフィア基準」から全く程遠い環境だからだ。

 災害・戦争被災者・難民などに人道援助を行うNGOや国際赤十字・赤新月運動は、(1)被災者には尊厳ある生活を送る権利があり、援助を受ける権利がある(2)被災者の苦痛を軽減するために実行可能なあらゆる手段が尽くされるべきだとの認識で「スフィア(球体の意)・プロジェクト」を立ち上げた。

 スフィア・プロジェクトは、人権保護に関する国際人道法・国際人権法から、被災者が援助を受ける権利があること、国家に援助の義務があることをうたった「人道憲章」を定めた。「人道援助を受ける権利は、尊厳のある生活への権利の不可欠な要素である」とし、食料、水、衣服、シェルター、保健・医療が保障されるべきだとする。一方で、この「保護と安全の権利」は「その管轄下にあるすべての人々を守るという国家の主権的責任に基づいている」とする。

 この「人道憲章」に基づき、災害への備えから被災者の衣食住とそれを支える生業への援助を実施するための理念と基準、具体的手段を整理したのがスフィア基準だ。

被災者に援助受ける権利

 スフィア基準は、被災者の尊厳の視点から出発する。それは、「被災者を人として扱う」という当たり前のことでもある。そのための基準の例を一部見てみよう(スフィア・アンドブック2011年版)。

 (1)トイレひとつ当たりの利用上限は20人。女性用個室は男性用の3倍必要(2)避難所の一人当たりの覆いのあるスペースは3・5u(約2畳)分。世帯ごとに十分に覆いのある生活空間を確保する(3)食料品は、すべての人々が栄養上のニーズと食料嗜好を満たす十分な量。1人1日当たり2100キロカロリー(コンビニおにぎりで約10個分強)。総エネルギーの10%はたんぱく質で、17%は脂質で提供される(4)被災者が食料入手のために財産を食いつぶすことは避けなければならず、現金や使途を定めた商品券の支給をすべき(5)被災者自らが洗濯できる環境を整備したうえで、衣料は最低2セット支給。快適な湿度・保温能力を持った衣料・寝具を支給する。

雑魚寝か、空調付きテントか

 冷暖房もない学校体育館で雑魚寝、廊下にまで人があふれ出す。避難所に指定されている学校の中には、地震時に余震での倒壊の恐れがあるとして建物内に避難しないよう掲示している場合さえある。真冬に起きた阪神淡路大震災では、被災者は凍てつく校庭や公園のテント村で廃材の焚火で暖をとっていた。仮設住宅が不足し避難所にとどまらざるを得ない被災者は、春には「授業再開の障害」のように扱われた。スフィア基準に照らせば、全く非人道的な生活を被災者は強要されている。

 では、スフィア基準は絵空事の理想か。そうではない。

 たとえば、日本と同じ地震国のイタリア。2016年の同国中部大地震の際、発生から72時間以内に家族ごとのテント、ベッドが支給され、衛生的な個室トイレも整備された。09年、6万3000人が住居を失った中部ラクイラ地震では、48時間以内に広さ10畳エアコン付きのテント3000張(はり)が設置され、最終的に6000張(3万6000人分)が準備された。また、当局により3万4000人がホテルでの避難を指示された。費用は公費だ。しかも、国家の備蓄で通常ベッド4万4800台/折り畳みベッド9800台/毛布10万7200枚、発電設備154基/バス・トイレコンテナ216棟/野外キッチン107基。日本と雲泥の差だ。

貧困と戦争より尊厳を

 日本では、被災者が調理することはできない。設備が準備されないからだ。その結果、ボランティアによる炊き出しや冷たいおにぎりに頼るしかない。風呂なども家庭用簡易プールと大差ない自衛隊の野外風呂に頼らざるを得ない。

 イタリアは、EU(欧州連合)内でギリシャなどに次いで財政危機が深刻といわれている。要は、国家財政を住民の尊厳に充てるか、軍事費や大企業・富裕層の既得権拡大に振り向けるかの違いだ。難民を生み出す発展途上国にも適用されるスフィア基準を、GDP世界3位のこの日本で実現できないはずはない。

 貧困を拡大し、戦争や軍拡、新基地建設推進など、人の尊厳を踏みにじる安倍政権こそ、「震災関連死」=国家的棄民を生み出す元凶だ。

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