2018年11月23日 1552号

【ドクター林のなんでも診察室 国連も高線量地域への帰還中止求める】

 国連人権理事会は10月18日、有害物質の管理・処理などについての特別報告を発表し、同25日担当のトゥンジャク特別報告者が会見で特に福島の帰還問題を説明しました。その中で、日本政府に、福島原発事故後年20_シーベルトに上げた住民の許容線量を年1_シーベルトに戻し、許容線量の20倍の高被曝線量の地域に子どもと出産年齢女性を帰還させる政策を中止するよう要請しました。

 同報告者は、許容線量を1_シーベルトに下げることは、2017年国連人権理事会が審査(UPR)で勧告し、日本政府はこれをフォローアップすることに同意していたのに勧告を実施していないと批判し、なぜしないのか説明すべきだとしています。

 これに対し、日本政府は20_シーベルトという基準値は国際放射線防護委員会(ICRP)による勧告の範囲内、とのウソをついて反論しています。事故後何年もたっていればICRP基準も20_シーベルトなら良いとはしていません。2011年に年20_シーベルトも被曝する学校の再開に対し、ICRPの幹部だった小佐古内閣官房参与さえ「子どもに年間20_シーベルトは非常識」と、参事を辞めて抗議したではありませんか。彼は、子どもは年5_シーベルト程度としていますが、チェルノブイリでは、1_シーベルト以上で移住の支援を受けられ、5_シーベルト以上は義務的移住です。

 原発事故直後100_シーベルトまでの被曝は安全かのようなデマ情報が日本中の行政や医学会のホームページに載りました。しかし、100_シーベルト以下の線量でも障害を生じさせることは、「原子力ムラ」が行った原発労働者(全勤務期間の平均被曝量19_シーベルト)の調査を始め、多数の科学的調査で証明されています。年20_シーベルトの地域に10年以上住めば200_シーベルト以上にもなり得ます。原発推進派はこんな簡単な算数ができないのでしょうか。

 原子力ムラは、金科玉条のごとく国連科学委員会(UNSCEAR)の見解をもとに、福島での被害を否定しています。この委員会は名前とは逆に極めて非科学的です。10月26日の日本公衆衛生学会で、神戸大学山内知也氏らは、UNSCEARがきわめて非科学的な資料と論理で甲状腺がん多発を否定していることを証明しました。以前にましてUNSCEARに腹が立ちました。

 しかし、その直後に国連人権理事会の声明を知り、国連の場も、原発村などの「1%」との闘いの場だと改めて実感しました。避難者などの広範な闘いと働きかけが今回の人権理事会の声明を引き出したものと思われます。同時に、これは避難者の裁判などの闘いにとってとても大きな力になるし、私たちも学会などで「国連が被害はないとしているから被害はない」とする原発推進派のデマにも対抗できる力をもらったと感じました。

   (筆者は、小児科医)
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