2018年11月30日 1553号

【入管難民法に「特定技能」/奴隷労働=「技能実習」の維持・延長をねらう】

 外国人労働者の受け入れを拡大する「出入国管理及び難民認定法(入管難民法)改正案」が衆院法務委員会で審議入りした。会期(12月10日)内成立、来年4月施行を急ぐ安倍政権。政府統計でも160万人の失業者がいる中で「人手不足」を叫ぶのは、低賃金でいつでも解雇できる労働力が欲しいからだ。国連から「奴隷・人身売買状態」と批判される「技能実習生制度」の温存・延長をはかる入管難民法「改正」を許してはならない。

「失踪」原因を隠ぺい

 入管難民法「改正」を急ぐ安倍政権は、11月16日衆院法務委員会で審議強行をはかったが、政府資料に改ざんが発覚。審議は週明けへと持ち越された。資料は、政府がひた隠しにしてきた「技能実習生」の実態を示すものだ。

 「技能実習生」は17年末で27万4千人(法務省統計)。そのうち7千人を上回る実習生が職場を逃げ出さざるを得なかった。政府は入管難民法違反で検挙された3千人近くから聞き取り調査を行ったが、詳細を明らかにしなかった。審議入り直前になってようやく示したものの、説明や集計をごまかしていた。

 政府は、主な失踪理由について「『より高い賃金を求めて』が86・9%」とまとめたものを示していた。だが、調書の選択肢は「低賃金/低賃金(契約賃金以下)/低賃金(最低賃金以下)」であり、「より高い賃金を求めて」の選択肢はない。加えて、3つの選択肢あわせても67・2%だった。つまり法務省は、実習生が違法な低賃金状態に置かれていたことを隠し、同時に低賃金以外の「暴力」「長時間労働」「帰国強要」などの失踪理由の比率を低めた。「ほとんどカネ目当てで失踪した」と印象操作をしたのだ。

 だが実態はごまかせない。実習生らは11月8日、国会内で実情を訴えている。「残業代300円」などの低賃金とともに、パワハラによるうつ病発症、労災事故隠し、契約外除染作業などの実態が次々に訴えられた。借金をして来日し、低賃金、劣悪な労働環境を受け入れざるを得ない状況の一端が明らかにされた。まさに「奴隷・人身売買状態」が維持されているのだ。

14業種34万人は根拠なし

 問題だらけの「技能実習」資格を温存したまま、受け入れ拡大をはかるのが今回提案されている「特定技能」だ。政府は提案後の11月14日になって初めて、「特定技能1号」としての受け入れ枠「14業種、5年間で34万5千人」の見込み数を明らかにした。

 安倍晋三首相は「上限数として運用」と答えるが、信用はできない。政府が見込む14業種全体の「人手不足」は、5年で145万人。約2割前後を外国人労働者でカバーする計算になるが、経済界からは「受け入れ数が少なすぎる。取り合いになる」と不満が出ている。政府の数字が控えめなのは「移民政策」との追及をかわすためで、本音は上限など設けるつもりはない。

 日本の失業者数は160万〜170万人(総務省統計局18年)。15〜34歳の年代では60万人前後になる。職を求める労働者はいるし、潜在失業者はさらに多い。対象とされた14業種はなぜ「人手不足」なのか。理由は明らか。いずれも劣悪な労働条件の業界だからだ。

 介護業の離職率は常に全産業平均を上回っている。最大の理由が「賃金が安い」(18年2月日本介護クラフトユニオン調査)。「24時間営業チェーン店」に代表される外食産業は、過労死が相次ぐブラック業界の代名詞とも言える。14業種以外でも、低賃金、長時間労働など労働条件の改善は全く進んでいない。まして安倍政権は、「残業代ゼロ法」など労働者の権利切り縮めを進めている。外国人労働者の労働環境改善に意を注ぐつもりなど最初からない。

 3年〜5年を限度とする「技能実習」。終了すると在留資格を失う。今回の提案は、実習終了者に「特定技能1号」資格を自動的に与え、さらに5年間就労させることを狙った。使用者は10年間働かせることができるのだ。


労働力を使い捨て

 日本で働く外国人は130万人を超え、毎年増加し続けている。最も大きな比率を占めるのは日系人・日本人配偶者の地位による在留資格者46万人。増加が著しいのが技能実習28万人、留学生(週28時間以内のアルバイト可)32万人(18年6月)だ。これに5年間で「特定技能」34万人が加わる。これらの外国にルーツを持つ人びとの基本的人権は守られていない。

 政府は、「特定技能1号」該当者には技能実習生や留学生と同じように家族の在留資格を認めない。年金、健康保険も海外居住者の家族には受給させない方針だ。政府が「移民政策ではない」と強調するのは、人として生きるための当然の権利を与えず、労働力としてのみ利用することを意図している。モノ扱いなのだ。

 法務省の資料改ざんを問われた安倍首相は、それには答えず「来年4月から制度開始をめざす」と居直った。かつて、「人手不足」を植民地からの強制動員労働者で埋め、戦争を遂行した日本。奴隷状態で使い捨てる体質は70年経っても変わっていない。



 
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