2018年12月07日 1554号

【安倍がたくらむ年金改悪/支給開始年齢上げて「死ぬまで働け」/税主体方式で生存権の保障を】

 年金支給開始年齢の引き上げ(以下、引き上げ)が狙われている。根本匠厚労相は10月3日、「ただちには考えていない」と否定して見せたが、これは「ただちには行わないが、いずれ行う」という意味だ。引き上げ攻撃に対抗するためには、今の年金制度を根本から問い直すことが必要である。

まずは既成事実化

 引き上げの動きは過去に何度も浮上していた。2011年10月に社会保障審議会年金部会が、2013年8月に社会保障制度改革国民会議が、その議論をしていた。財務相の諮問機関である財政制度審議会でも今年4月、65歳から68歳に引き上げた場合の具体例が示され、そのメリットが説明された。いわく「(引き上げは)高齢就労を促進する側面」があり、「保険料収入が増えれば、将来の年金給付水準の維持・向上にもつながる」。よって「後世代の給付水準の確保」や「年金制度の維持・充実」の観点から引き上げを検討すべきだという。

 もっとも、いきなり年金支給の年齢を引き上げると公言しても、世論の合意は到底得られない。そこで安倍政権は引き上げの条件づくりを始めた。受給開始年齢について70歳を超える選択もできる制度の導入がそうである。安倍晋三首相は「3年で断行する」と言い切った。

 現行制度では70歳まで繰り下げ可能だが、繰り下げ受給を選んだ人は老齢厚生年金で1・2%(老齢基礎年金では1・4%)しかいない。ほとんど利用されていない制度の見直しをなぜ急ぐのか。繰り下げ支給の選択者を増やすためだ。つまり「年金は70歳から」の既成事実を作ってしまいたいのである。

 「70歳までの雇用継続の実行計画」を来年夏までにまとめるとしているのも、条件づくりの一環だ。それができなければ、引き上げの実行が困難になるからだ。

確実にワーキング・プア

 「人生100年時代」「生涯現役社会」といった美名によって、あるいは「支給を遅らせた方が生涯での受け取り額は多い」との誘いで、安倍政権は年金支給開始年齢の引き上げ容認へ世論を誘導しようとしている。

 高齢者になっても働き続けたいと思っている人が多いのは事実だ。しかし、それは貧弱な年金だけではまともな暮らしができないからである。しかも、高齢者の雇用環境は厳しい。66歳を超えても就労を希望する者が全員働ける企業は10・6%でしかない(厚労省調査/11月16日発表)。また、65歳以上の就業状況をみると、男性で70%超、女性で80%超の人が非正規である(2018年版高齢社会白書)。

 年金開始年齢の引き上げという「死ぬまで働け」宣告が実行されたなら、ワーキング・プアの高齢者が今以上に増えることは確実だ。

保険方式では無理だ

 国民年金(基礎年金)の未納・滞納率はここ数年、30%前後である。このため年金制度への不安が高まっている。ただし、未納などによって年金財政が深刻な事態に陥るわけではない。未納者は未納期間に対応する年金給付を受けられないからだ。問題にすべきは、払いたくても払えない人が少なからずいることだ。この問題は、基礎年金を社会保険方式で運営していることに起因する。減免などの仕組みがあっても、保険である限り一定基準以上の保険料を払っていることが受給の条件とならざるをえない。保険方式には排除原理が付きまとうのだ。

 国民年金法は、憲法第25条第2項の理念を基に「国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与すること」を目的としている。つまり、基礎年金は生存権を保障しなければならない。

 排除原理を内包する保険方式では、すべての人の生存権を保障すべき基礎年金を実現できない。未納・滞納問題を解決するためにも保険方式からの転換が必要だ。それは、税を主体にした公費(拠出金や負担金などを含む)での運営である。

 さらに、給付水準についても生存権を保障するものでなければならない。生活保護基準より低い給付額になっていることが生活保護受給者を急増させている要因でもある。基礎年金で最低限の生活が送れるようにすべきなのだ。

 1985年以降、年金財政危機を理由に給付額が次々と切り下げられている。その結果、高齢者などの貧困化が進んでいる。支給開始年齢の引き上げは貧困をさらに深めるだけだ。

 基礎年金を公費による制度に切り替える、その財源を不公平税制などの解消で生み出す、こうして年金の拡充を今こそ行うべきである。

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