2018年12月07日 1554号

【国際的に断罪される帰還政策/国連報告者が「見直し」声明】

 福島原発事故から7年半。安倍政権は、2年後に迫った東京オリンピックまでに原発事故の痕跡を消し去ろうと、次々に避難指示を解除し、避難者への各種支援策も打ち切り、「避難者」という存在そのものを過去のものにしようとしている。だが、こうした日本政府の政策は国際的にも批判されるに至っている。

 10月25日の国連総会で国連人権理事会のトゥンジャク有害廃棄物特別報告者が福島帰還政策の見直しを求める声明を発表した。その主な内容は、(1)日本政府に、女性や子どもの避難者を放射線量の高い地域に帰還させる政策をやめるよう求める (2)日本政府は、公衆の被ばく限度を年間1_シーベルトに戻すべきとのドイツのUPR(普遍的定期的審査)勧告(注)のフォローアップに同意しながら実行していない (3)日本政府には、子どもの被ばくを予防し、最小限に抑える義務がある (4)日本政府の避難指示解除と住宅支援の停止の組み合わせは、多くの自力避難者に帰還の圧力となった―というもの。

 これに対して日本政府は「帰還は強制しておらず、年間20_シーベルトという基準はICRP(国際放射線防護委員会)の勧告に基づくものだ」と反論した。

日本政府のごまかし

 日本政府の言い分は“ICRPの2007年勧告は、事故等の「緊急被ばく状況」での放射線量の参考レベルを年間20〜100_シーベルトとしており、最も低い20_シーベルトを避難基準、そして解除基準としている”というもの。だが、これは国際的には通用しない。日本政府はすでに「緊急被ばく状況」ではなく、「現存被ばく状況」と認識している。環境省は「現存被ばく状況に移行したとみなされ…避難指示解除準備区域が設定された」と説明しているからだ。

 「現存被ばく状況」の参考レベルは、1〜20_シーベルト、できるだけ低い線量を採用すべきとしている。政府の言う「20_シーベルトは最も低い値」ではなく、逆に「最も高い値」だ。国際的原発推進機関であるICRPの勧告さえ捻じ曲げている。

 国際的には、チェルノブイリ法では5_シーベルト以上は移住が義務づけられることを参考にすれば、5_シーベルトを下回らない限り、避難指示を解除すべきではないし、解除しても避難の権利は認められなければならない。

 9月5日に2名の特別報告官から日本政府に送られた情報提供を要請する書簡にも、「科学的な証拠は、年間1〜5_シーベルトの範囲を含む、低線量の放射線を浴びた人にも、がんの発生を含む深刻な健康リスクがあることを示している」と明記されている。20_シーベルトを下回ったから大人も子どもも居住可能というのは暴挙というほかない。


国際的批判を力に

 国連特別報告者声明のきっかけとなったドイツの勧告は、昨年10月に行われたUPR対日審査プレセッションに福島県から京都に避難中の母親が参加して、避難者への支援打ち切りの動きや汚染地への帰還圧力を訴えたことに端を発する。その訴えに共感した4か国政府が日本政府に勧告をだした。「自主避難者への支援継続」(オーストリア)、「国内避難民に関する指導原則の適用」(ポルトガル)、「線量限度の年間1_シーベルトへの回復」(ドイツ)、「被災者への医療サービスの提供」(メキシコ)の4つの勧告だ。

 安倍政権はこの4か国の勧告に「同意」する振りをしながら、実際には無視した。だが、全国各地で東電と国の責任を問う避難者の集団訴訟が続いており、来年2〜3月にはかながわ訴訟、千葉第2陣訴訟、えひめ訴訟で判決が出る。住宅追い出し策動に対しても、粘り強い抵抗の取り組みが行われている。こうした避難者の闘いを応援し、国際的批判をも活用して、国民の健康・命より巨大資本の利益を優先する安倍政治を転換していこう。

(注)ドイツのUPR勧告
 特に許容される放射線量を年間1_シーベルト以下に戻し、避難者及び住民への支援を継続することによって、福島地域に住んでいる人びと、特に妊婦および児童の最高水準の心身の健康に関する権利を尊重すること。

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