2018年12月07日 1554号

【非国民がやってきた!(295) 土人の時代(46)】

 ステファニー・スコットによると、カナダにおける遺骨返還問題にはいくつかの論点があり、複合的な問題です。単純な法政策で解決できるとは限りません。遺骨返還に関するカナダの法政策とガイドラインの適切さも検討する必要があります。そこでスコットはファーストネーションのメンバー、博物館学芸員、及び研究者にインタヴューを行いました。

 多くの博物館、大学、その他の施設は遺骨返還に前向きに取り組み、先住民族から要求がなされたならば返還することに賛成しています。しかし、遺骨返還がただちになされるわけではありません。返還要求とは何を意味するかも明らかにしなければなりません。ブライアン・チショルム(ブリティッシュコロンビア大学)は、先住民族のどのレベルに返還要求の権利があるかが不明確だと指摘します。時の経過や資金不足のために強い関心を持たない共同体もあります。資金不足は先住民族共同体が返還要求を出すことを制約しています。パメラ・メイン・コレイア(アルバータ大学)も、そこが誰の土地なのか、所有者はどこへ行ったのか、誰がそれを確認できるのかといった問題の難しさを指摘します。先住民族の諸個人の信仰を尊重する必要性を誰もが指摘しています。

 将来の研究のために遺骨を保管することよりも、遺骨を返還する義務を優先するべきだと指摘されてきました。ジャネット・ヤング(カナダ文明博物館)は、将来の学術研究のための記録が失われる可能性を指摘しつつも、現に生きた諸個人の尊重を妨げるわけにはいかないことを認めます。

 ケリー・スイフト・ジョーンズ(シムコー州博物館学芸員)は、遺骨返還のための対話を試みてきました。前例もポリシーもないためにどうすればよいかわからない状態で、1970年代以来、返還のための討論を始めようとしましたが、失敗続きでした。遺骨をどう扱うべきか途方に暮れていました。政府に問い合わせても的確な応答はありません。2004年、地方のあるファースト・ネーション集団のメンバーが博物館に勤務するようになって、ようやく対話が実現しました。2010年にシムコー州博物館所蔵だったすべての遺骨が返還されました。今日では遺骨の扱いに関するガイドラインがあります。国立オンタリオ博物館、カナダ文明博物館、ブリティッシュコロンビア大学、トロント大学などのガイドラインです。

 多くの博物館は返還を進めたいと考えていますが、そうではない博物館もあります。そこには個人的な偏見や、不完全な記録にもとづく烙印への恐れがあります。多くの遺骨は1950年代以前に収集されたので、その記録が今日の水準からみると不完全です。不完全な記録しか保有していないことを知られることへの恐れがあるのです。記録が不適切なために返還手続きの妨げにもなります。返還先を間違える危険性もあります。

 資金不足は先住民族にとっても施設にとっても返還の妨げになります。研究者や博物館職員は返還準備をしていますが、多くのファースト・ネーション集団は、遺骨を損壊する分析を望みませんから、DNAやアイソトープ・テストは問題外です。DNAやアイソトープ・テストによって遺骨の出所・由来が明らかになるかもしれませんが、遺骨を損壊する分析は選択肢になりません。ブリティッシュコロンビア州には250以上のファースト・ネーション集団があり、それらはオーバーラップしており、境界も不明確です。地理的な位置だけでは、どの集団の遺骨かは特定できません。同じ墓に敵対する集団の兵士の遺体が葬られていることもあります。返還先を間違えると、魂はいつまでも彷徨うことになってしまいます。

 アメリカ、イギリス、オーストラリアと同様に、カナダにおいても遺骨返還を困難にしているのは、記録の不完全性と資金の不足です。記録の不完全性は、植民地主義的な遺骨収集に際して粗雑な扱いがなされた結果でしょう。いつ、どこで、誰の遺骨を収集したかをきちんと記録していないためです。資金の不足は、問題の重要性を認識していないため十分な予算を配分しようとしないことを意味します。
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