2018年12月07日 1554号

【コラム見・聞・感/負けに不思議の負けなし/「ケータイ4割」で自滅した安倍政権】

 玉城デニー新知事を生んだ沖縄県知事選から間もなく2ヶ月。オール沖縄の勝因については、すでに本紙の各記事で分析されたとおりだが、安倍政権側の敗因として、それほど重要ではないが指摘しておきたいことがある。菅官房長官が選挙中にやたら強調してきた「携帯電話料金4割引き下げ」公約のことだ。

 ケータイを「機種変」したときに販売店が顧客に現金を払い戻す「キャッシュバック」という慣行がある。あまり知られていないが、沖縄はこのキャッシュバックが日本一の水準なのである。

 少し前になるが、沖縄での高額なキャッシュバックが携帯電話業界界隈で話題になったことがある。2017年頃のことだ。特にウィルコム沖縄(ソフトバンク系)に他社から乗り換えた場合、電話機1台当たりのキャッシュバックが10万円を超えることもあった。4人家族全員が他社から乗り換えると40万円だ。「往復の飛行機代とホテル代を払ってもお釣りが来る」として、わざわざ県外からケータイを機種変するために沖縄まで来て、観光もしていく人がいる、と話題になった。「0歳からの学割」という看板を堂々と掲げる販売店も那覇市内にあったという。ここまで来ると学割とは名ばかりだ。

 こうした販売手法は違法ではないのか。筆者は黒に近いグレーだと考える。独占禁止法に基づいて、公正取引委員会が82年に公表したガイドライン「不公正な取引方法」では、不当な利益による顧客誘引(正常な商慣習に照らして不当な利益をもつて、競争者の顧客を自己と取引するように誘引すること)を例示している。ウィルコム沖縄の行為がこれに該当しないとすればどんな行為なら該当するのかと思うからだ。

 ITジャーナリスト石川温さんは、菅官房長官が目の敵にしている日本の携帯料金も、国際比較ではそれほど高い部類に入らないという。現時点では最もデータ通信容量の大きい20GBプランこそ調査対象6カ国ではドイツに次ぎ2番目だが、2GBや5GBプランでは中位に過ぎない。

 菅氏と言えば、2006年発足の第1次安倍政権では、電話事業などの通信行政を所管する総務相を務めている。にもかかわらず、携帯電話料金の現状とあまりにかけ離れたピント外れの公約を打ち出すようでは、安倍長期政権の番頭気取りの官房長官もこの程度だったということだ。

 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」との格言もある。安倍政権の敗北は必然だったのだ。

       (水樹平和)
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