2018年12月14日 1555号

【入管法改定案/審議させず暴走採決/「技能実習」の利権屋にさらに権益を】

 出入国管理及び難民認定法(入管法)改定案を会期末までに成立させ、来年4月実施をたくらむ安倍政権。だが「在留資格」創設以外何も示さない。技能実習制度に見られる民間仲介業者による中間搾取の横行については議論させない。そこには政治家が絡む利権構造があるからだ。入管法改定案は廃案以外ない。外国人労働者だけにとどまらない、すべての労働者の権利にかかわる問題だ。

事実を隠して強行突破

 入管法改定案は11月27日、衆院本会議で強行採決され、参議院に送られた。あくまで会期内(12/10日)成立、来年4月施行をめざすというのだ。急ぐ理由を問われた安倍晋三首相は「深刻な人手不足への対応は待ったなし」(11/28参院本会議)と答えた。安倍の言うのは「安くて、いつでも捨てられる労働者の不足」。企業が常に望むものだ。成立を急ぐ本当の理由は「議論すればするほどボロが出る」と与党議員が言うほどいい加減な法案のため、時間がかけられないのだ。

 最長でも5年に限られる技能実習生を引き続き就労させるため、新たな在留資格「特定技能」を創設する。これが改定案のすべて。技能実習制度の欠陥はそのままだ。

 1993年に始まる技能実習制度は国連からも「人身売買」「奴隷労働」と批判されてきた。それは中間搾取が横行する仕組みにある。「技能実習」に応募する労働者は多額の仲介料などを支払わなければ、日本で仕事は得られない。日本側の雇用主は、受け入れ機関となる監理団体に「監査指導料」などを支払わなければならない。

 技能実習生の雇い主は中小零細企業がほとんど。「仕事を覚えに来る」建前をたてに、最低賃金すら支払わない例が続出している。「職場選択の自由」がない実習生は借金返済のために過酷な労働に耐えるか、「失踪」せざるを得ない。2017年になってやっと技能実習法が制定され、悪質な仲介業者を締め出すために「認定制」としたものの実態は野放しだ。

政・官・財の利権構造

 技能実習生の4割以上を占めるベトナム。在ベトナム日本大使館の1等書記官は「ベトナムそして日本において、悪徳ブローカー、悪徳業者、悪徳企業が跋扈(ばっこ)しており、ベトナムの若者を食い物にしています」と公式に発言している。

 ベトナムの仲介業者は300以上。地元紙によれば、応募時に手付金、採用決定時に学費・寮費、その他に手数料あわせて80万円を仲介業者に払う。ベトナム政府が定める上限の2倍の額。監理団体から要求される「見返り」が加算されているからだという。

 監理団体は、商工会や農協・漁協、他に大臣告示による団体など非営利団体とされる。そんな団体が実習生一人あたり毎月数万円の「監理費」を雇い主から徴収する。その上に送り出し国の仲介業者に渡す1人月5千円の「管理費」も徴収。実習生も雇い主も、仲介者・監理団体の双方からピンはねされているのだ。

 この利権構造に政治家が絡んでいる。「公益財団法人東亜総研」。15年に大臣告示で監理団体となり今年3月末で115人の労働者を受け入れた。監理費だけで数千万円を手にすることになる。この代表理事は元自民党幹事長武部勤、特別顧問には現幹事長の二階俊博が就いている。

 送り出し国は、中国からベトナム、さらにカンボジアやミャンマーへとより安い労働力を求めて移っている。

 「日本ミャンマー協会」は求人票の事前審査を一手に引き受け、監理団体から手数料を徴収。さらに「ミャンマー人技能実習生育成会」への入会を義務付け会費を出させる。名誉会長中曽根康弘元総理を筆頭に、麻生太郎副総理・財務大臣、古賀誠元運輸大臣、甘利明自民党選対委員長などなどの政治家が役員に名を連ねている。

 さらにその上に、技能実習生制度全体を統括する団体「公益財団法人国際研修協力機構」(JITCO)がある。91年に法務・外務・通産・労働の4省(当時)により設立されたJITCOは、重要な天下り先だ。この機関には、全国約2300の監理団体や数千社の受け入れ企業から年17億円以上の会費が集まる。


労働者の権利を守れ

 政・財・官一体になって、外国人労働者を搾取しつくす技能実習制度。その構造をそのままに延長するのが今回の入管法改定案だ。こうした指摘に安倍は「(実習生を受け入れている)企業のために安い労働力を確保し、就労期間を都合よく延長するためだけに創設するのではない」と答えるが、まさに、そのためにこそ創設されるのだ。付け足せば、利権構造を温存するためでもある。

 外国人労働者は景気の「調整弁」にされている。シャープが日系労働者など約3千人を解雇していたことが報じられた。下請け会社に雇わせ、使用者責任を回避するというあくどい手法も使っている。労働者の権利は、人間らしく生きていくための基本的人権であり、健全な社会を築く基本でもある。国籍に関係なく、すべての人びとに保障されなければならないものだ。

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