2018年12月14日 1555号

【どくしょ室/除染と国家/21世紀最悪の公共事業/日野行介著 集英社新書 本体860円+税/結局、狙いは事故の幕引き】

 東京電力福島第一原発事故から7年。事故に伴う放射能汚染対策の実態を知ることは「国家の信用と民主主義の基盤が破壊された」この国の現実を直視することだと著者は言う。

 原発から放出された放射性物質の推計は900ペタベクレル(ペタは兆の千倍)。広範囲の放射能汚染に対し、日本政府は住民の避難ではなく、土木工事で放射性物質を集める除染を政策の中心に置いてきた。延べ約3千万人の作業員が投入され、2兆5千億円もの国費をかけた巨大事業。それは効果があったのか。

 福島の山野には汚染土をつめた膨大なフレコンバッグが仮置きされている。仮置き場がない地区では、除染した宅地などに「仮埋設」されている。その最終処分については何も決定されていない。そもそも汚染地区すべての表土をはぎとることは不可能だ。事実、山林などは手付かずの状態である。住民の被曝への不安はまったく解決していない。

 それなのに、政府は除染作業の終了とタイミングを合わせ、避難指示を一気に解除した。東京オリンピックの前に、原発事故の被害を過去のものにしようとする意図が透けて見える。

 あろうことか、政府はこの汚染土を「資源」として再利用する計画を打ち出した。公共工事に活用することで少しでも汚染土を減らし、国民の目に触れないように「処分」してしまおうというのだ。

 著者は、計画を立てた環境省の会議の議事録に疑問を持ち、隠蔽された会議内容を独自の取材で探り当てた。原発解体などで発生する廃棄物を無条件で再利用できる濃度基準(クリアランスレベル)は、100ベクレル以下と決まっている。環境省は汚染土についてはその基準を8千ベクレルまで引き上げ、コンクリートなどで覆うことで基準の整合性を図ろうとしている。しかし8千ベクレルの汚染土が100ベクレルまで減衰するのに170年かかる。環境省会議は、長期管理問題で再利用が困難とならないように、この問題を検討した事実を議事録には記載しなかったのだ。

 また、8千ベクレル汚染土で防潮堤を造ると、災害などで破損すれば年間1ミリシーベルト以上の被曝が予想された。この予想を認めれば汚染土の再利用ができなくなると考えた担当官が「基準内に収まった方がよい」と発言し、予想値の変更が行われた。この発言経過も議事録から消されていた。

 密室で検討し、人びとの要望とはかけ離れた政策を打ち出し、「決まったことだから」と押し付ける。そして証拠を隠滅する。この国の政治家や官僚の行動パターンはいつも同じだ。森友・加計問題しかり、自衛隊の日報隠蔽問題しかり、裁量労働制をめぐるデータねつ造しかり。著者が言うように、原発事故対応と同根の問題なのだ。 (N)
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