2018年12月21日 1556号

【どう見る ゴーン逮捕劇/労働者から搾り取り報酬年20億/怒りを新自由主義転換の力に】

なぜ逮捕されたのか?

 「カリスマ経営者」と「賞賛」されてきたフランス・ルノー、日産自動車、三菱自動車会長のカルロス・ゴーンが「金融商品取引法違反」で東京地検特捜部に11月19日、逮捕された(再逮捕12/10)。今年3月期まで9年間、有価証券報告書に総額約100億円の報酬額を記載しなかったことが罪だという。

 報告書は日産(西川廣人(さいかわひろと)社長)が作成。ゴーンに虚偽記載の罪を問えるのか、疑問は多い。それだけに逮捕劇は様々な憶測を呼び、日仏、米仏間の争いとの見方もある。

 日仏間の利害はこうだ。日産の株43%を保有するルノーの筆頭株主はフランス政府だ。日産の利益でルノーが救われているとまで言われる。マクロン仏大統領は、2015年、経財相の時からルノーと日産の経営統合を提唱。だが、ゴーンは同意しなかった。ルノーでの役員任期切れが迫った今年2月、大統領となったマクロンは任期延長を提示し、経営統合を飲ませた。この動きを見た日産側がゴーン排除に動き、東京地検特捜部に社内情報を提供したというのだ。

 米仏間はどうか。ルノーが日産・三菱を統合すれば、独フォルクスワーゲンに次ぐ世界2位の自動車企業が仏に誕生する。米自動車産業にとっても脅威だ。マクロンの意図する日産統合は静観できない。ゴーン逮捕は最も手っ取り早い手段であり、日産の動きを後押ししてもおかしくはない。

 いずれにしてもグローバル資本間の争いである。「フランスの支配から日本の国益を守った」などは間違いだ。ゴーンの高額報酬は日産で働く者の汗と血を吸い取って生み出されたものである。

リストラ・高額報酬の先鞭

 その視点からゴーンの罪状を見ておこう。ゴーンが日産に送り込まれたのは1999年6月。その4か月後に「日産リバイバルプラン」を発表。5工場を閉鎖し、2万1千人の人員削減、下請け半減などの大リストラ案だ。この大量解雇案はゴーンが考え出したものではなかった。日産の前経営陣がつくった「グローバル事業革新策」がベースだった。ゴーンの役割はこれを実行に移すことだった。

 日産は99年、7000億円近い赤字を計上、倒産寸前だった。だが1年で黒字化、その後も利益を上げ「V字回復」を達成した。これが「好例」となり、経営不振の企業にとってリストラ=大量解雇が「特効薬」であるかのように広がっていった。この傾向は、2008年のリーマンショックを挟んでますます顕著になる。09年〜13年の5年間で最も人員削減したのがNECで、4万2千人。グループ全体の労働者数の約3割にあたる。他にも日立製作所4万人、ソニー3万人、パナソニック2万人、などなど。

 ゴーンは高額報酬でも先鞭をつけた。01年小泉政権誕生とともに加速した新自由主義政策。労働者の非正規化、派遣・請負が拡大していく。それに伴い、米国などと比較すれば労働者の賃金との差が少ない≠ニされていた企業の役員報酬が激増。有価証券報告書に記載が義務付けられた10年以降、年1億円を越える報酬を手にする役員数は289人から538人に増えた。ゴーンの場合、報告書記載額(半額と言われる)で従業員平均給与の約90倍だが、ソニーの平井一夫会長は268倍。総所得額では、ソフトバンク孫正義は100億円を超え、総資産に至っては2兆3千億円に近くにもなる。

労働者を守る政策転換を

 逮捕時に、日産を不当解雇された労働者の怒りの声がわずかに報じられた。だが、その後の報道は、ゴーン個人の強欲さを際立たせる豪勢な家族旅行、別荘などスキャンダラスなものばかりになり、正当な怒りを見えなくさせる。ゴーンだけにとどまらない企業経営者の高額報酬が労働者の賃金を削ったものの集積であること、派遣・非正規労働者の増加と並行して進んだことに迫る報道はない。

 ゴーンが最も問われるべき罪は、大量解雇罪と労働者搾取罪だ。それはゴーン一人の罪ではない。グローバル資本の新自由主義政策による労働者使い捨てという犯罪≠セ。1%の富裕層は、99%の人びとが労働により生み出した富を奪い、貧困層に追いやることで成り立つ。当然の怒りを高め、新自由主義政策転換の力に変えることが必要だ。労働者の生活と権利を守らせることからはじめよう。

 
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