2018年12月21日 1556号

【漁業壊す改悪漁業法 民主主義否定し グローバル資本に漁業売り渡す】

 入管法や水道法と並び、今国会で改悪を強行された法案に漁業法がある。この改悪もまた水道法と同様、漁民のための漁業を解体しグローバル資本に売り渡す「新自由主義漁業法」だ。

民主主義否定の改悪法

 農林漁業に関する法律では、地方自治体の農業政策に農業者や漁業者の意見を反映させるため、関係する委員会の委員に公選制が採用されていることが多かった。農業委員会委員の半数を公選制とする農業委員会法や、海区漁業調整委員会委員の一部を公選制とする漁業法の規定はその代表例だ。農林漁業は土地や海の利用に大きく関わり、また農業や漁業の資源には限りがあるため、農業者同士、漁業者同士の対立を民主的に調整する上で優れたシステムだった。

 今回の漁業法改悪で、海区漁業調整委員の公選制が廃止され知事による任命制に変更。法律の目的を定める第1条から「漁業の民主化を図る」との文言が削除された。

 敗戦までの日本では、漁業が大資本に支配され、漁民は貧困にあえいだ。小林多喜二の小説『蟹工船』(1929年発表)では、大企業に支配された北洋漁業への出漁を漁民が「地獄」と表現している。戦後、1949年に制定された漁業法に漁業民主化の文言が入ったのはこのような戦前漁業への反省からだ。

 安倍政権は、2015年に農業委員会法も改悪、農業委員の公選制を廃止し任命制に切り替えた。民主主義を敵視する安倍は、あらゆる法律から民主主義を消す改悪を次々と続ける。最終目的が憲法から民主主義を消し去ることだ。

漁協優先も否定

 漁業法が定める「漁協優先の原則」も今回の改悪で投げ捨てられた。現在、漁業権が与えられるのは漁協に限定されているが、今後は企業にも漁業権が認められる。

 漁協組合員であっても、漁協が認めていない漁場や漁法での操業を行えば密漁に認定されるほど、漁業法による規制は厳しい。これには資本の漁業支配から漁業労働者を守ることの他に、水産資源を乱獲から守る目的もあった。ニホンウナギに至っては、グローバル資本の参入が進んでいない現在でさえ漁獲量が極端に減少し、環境省が2013年、レッドリスト(絶滅危惧種)指定を行っている。この上「儲けるための漁業」を目指す企業までが参入すれば、あらゆる水産資源が絶滅に向かうことは明らかだ。


宮城「特区」の全国版

 今回の漁業法改悪は、東日本大震災による混乱のどさくさに紛れて宮城県が2013年に導入した水産特区の全国拡大版だ。新自由主義者の村井嘉浩知事(元自衛隊、松下政経塾出身)が「震災で混乱した漁業を復興させる資金が自治体になく、民間資金が必要」と主張し導入に執念を燃やしてきた。導入の口実まで水道民営化と全く同じだ。

 2013年、石巻市桃浦(もものうら)漁港でのカキ漁をめぐって、地元漁協と、地元企業と一部漁民で作る「桃浦かき生産者合同会社」が漁業権を争った。漁業法では漁協に優先権があったが、県は特区制度を利用して、合同会社に漁業権を付与した。2018年の漁業権更新に当たり、地元漁協は漁業権申請自体、あきらめざるを得なかった。

 だが、漁協でなく合同会社に漁業権が与えられ、漁協を通さず合同会社が直接大手外食産業に水産物を出荷できるようになった。いずれ大手外食産業が直接漁業権確保に乗り出す事態が予想される。そうなれば、漁協を通じて地元に還元されていた水産物販売収入が大企業に奪われるだけでなく、限りある水産資源を乱獲から守ることもできない。

 11月、岩手県で緊急開催された「東北沿岸漁民緊急フォーラム」では、長谷川健二福井県立大名誉教授(漁業経済学)が「漁協による漁場の利用調整が働かなくなり混乱を招く。企業利益も地元に還元されない」と指摘。宮城海区漁業調整委員の出席者は、委員公選制廃止を「漁業者が自分の意見を主張する機会を奪う」と批判した。「海の資源は効率化を求める企業だけのものではない」(岩手海区漁業調整委員)との声も出た。漁業関係者からは今も反対の声が続く。

 水産資源をグローバル資本の手に渡す漁業法改悪の実体化を阻止するため、今後は地域での闘いが重要だ。漁業者と消費者・市民が連帯し「海の新自由主義」を葬り去ろう。

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