2018年12月21日 1556号

【シネマ観客席/共犯者たち/チェ・スンホ監督 2017年 韓国 105分/報道の自由は闘って守る】

 総アベちゃんねる化と言われるように、政権べったりのテレビ報道が目立つ今の日本。お隣の韓国もつい最近まではそうだった。違うのは、多くの放送人が不当な圧力に屈せず、市民と連帯して闘いぬいたことである。公開中の韓国映画『共犯者たち』(チェ・スンホ監督)は、国家権力の言論弾圧に抗い続けた人びとの記録である。

右派政権の言論弾圧

 2008年、発足したばかりの李明博(イミョンバク)政権はテレビの調査報道によって痛手を負った。ひとつは閣僚人事の見送り。もうひとつは米国産牛肉輸入に反対する市民デモの爆発的広がりである。危機感を募らせた政府は弾圧の刃を2つの放送局に向けた。

 閣僚候補者の不祥事を暴いた公共放送KBSに対しては社長解任を強行。反対する労働者を警察力で排除した。政権のメディア対策ブレーンだった人物が新社長に就任し、大統領出演の広報番組を始めた。その一方で調査報道チームは解体され、記者たちは非制作部門送りとなった。

 準公営の放送局MBCへの弾圧も苛烈をきわめた。米国産牛肉の危険性を指摘した報道番組『PD手帳』に虚偽報道の疑いがかけられ、担当プロデューサーが逮捕された。政府に批判的と見なされた報道キャスターが番組を降ろされた。天下り社長によって解雇や懲戒の処分を受けた者は約200人に及ぶ。本作品の監督チェ・スンホ(崔承浩)も不当解雇されたプロデューサーの一人である。

 かくして韓国の2大放送局から政権批判の報道は一掃された。朴槿恵(パククネ)大統領の時代には、完全に政府の「広報基地」と化した。2014年のセウォル号沈没事故の際には、政権への影響を案じた局の上層部が現場記者の取材報告を握りつぶし、「全員救助」という大誤報をやらかした。大統領の友人が国政に介入した疑惑が浮上してもニュースの扱いは小さく、「北朝鮮のロケット」報道に埋もれるありさまだった。

 チェ・スンホ監督はMBC在籍当時、取材を拒む李明博大統領に「記者に質問させないと国が滅びますよ」と迫ったことがある。その言葉は現実のものとなった。報道の自由が奪われた結果、民主主義が機能しなくなった。国家権力が暴走し、まさに国を壊したのである…。

記録することは闘い

 本作を観た人は誰もが「日本と同じだ」と感じ、と同時に「日本とは全然違う」と驚かれたことだろう。

 同じなのは、言論統制の構図である。主犯は大統領や首相などの権力者。共犯は権力におもねる放送局の経営陣・幹部たちだ。犯行の手口もよく似ている。映画では、調査報道に長年携わってきた記者がスケート場に配転されるエピソードが出てくる。日本でも、森友学園問題でスクープを連発していたNHK大阪の記者が考査部への異動を命じられる一件があった。

 では何が日本と違うのか。マスコミ労働者が圧力に沈黙せず、それを市民に暴露して闘い抜いたことである。「社長は出ていけ」と叫ぶ姿をスマホで自撮りし、SNSで生中継したドラマ番組のプロデューサー。一人で始めた抵抗に呼応し、社屋ホールで何十人もの自撮りライブが始まる場面は圧巻である。

 「さすがはテレビマン」と感心したのは、弾圧と抵抗の様子を映像に記録し続けたことである。私服警官が局員に暴行する場面、局の理事会に労組幹部が乗り込み直談判する場面等々。これらの映像がなければ映画は成立しなかった。解雇された元記者が語るように、記録を残すことは重要な闘いなのだ。

 チェ・スンホ監督の突撃取材はマイケル・ムーア並みだ。局の重要なイベントに乗り込み、社長に取材カメラを向ける。日本でいうと、安倍晋三首相との「会食」に向かう報道各社のトップを直撃するようなものか。取材拒否は確実だろうが、連中の反応を見せるだけでも、メディア支配の醜悪な実態を印象づけることができるはずだ。それが映像の力ではないか。

市民との連帯が鍵

 「この映画は私たちだけでつくったのではありません。市民の支援があればこそ、です」(『世界』1月号)と、チェ・スンホ監督は強調する。事実、映画制作を担ったのは、市民の会費で運営される「ニュース打破(タパ)」(放送局から排除された記者たちが始めた調査報道専門の独立メディア)である。

 制作資金集めや上映を広げる運動にも多くの市民が参加した。そして『共犯者たち』はドキュメンタリー映画としては異例の観客数(1年間で26万人)を記録した。こうしたマスコミ労働者と市民の連帯も日本には見られないものだ。つくり出していかねばならないと切に思う。

   *  *  *

 映画の「その後」に簡単に触れておこう。ろうそく革命によって朴槿恵政権が倒された後、KBSとMBCの両労組は「放送の正常化」を求めるストライキに突入した。

 KBSのストは142日間に及び、社長の解任で終わった。新しい社長は市民による諮問委員会と理事会の意見を合わせて選ぶという画期的な方法で選出され、「権力・資本からの独立」が宣言された。MBCの闘いも労組が勝利した。公募の結果、新社長に就任したのはチェ・スンホその人である。

 報道は変えることができる。その鍵は市民が握っている―。映画のメッセージをしっかり受け止めたい。   (O)



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