2018年12月28日 1557号

【どくしょ室/東電刑事裁判で明らかになったこと 予見・回避可能だった原発事故はなぜ起きたか/海渡雄一 編著 福島原発刑事訴訟支援団・福島原発告訴団 監修 彩流社 本体1000円+税/旧経営陣の有罪判決 必ず】

 東京電力の勝俣恒久元会長、武黒一郎・武藤栄元副社長の3人を業務上過失致死傷罪で起訴した福島原発刑事訴訟は12月26〜27日、論告・求刑を迎える。

 かつてない放射能大量放出事故を引き起こした者たちに正義の裁きを。そのことを願って出版されたのが本ブックレットだ。

 編著者の海渡(かいど)雄一弁護士は、避難の途中亡くなった双葉病院の入院患者ら44人の被害者遺族の代理人として公判に立ち合ってきた。

 第26・27回公判(9/18・9/19)で、同病院の看護副部長らが証言した。浮かび上がったのは、線量の急上昇で搬送が中断され、スタッフが現地に戻れず、十分な医療とケアが提供できなかった実態だ。看護副部長は「原発事故がなければ病院で治療を続けることができた」と悔やんでいる。

 裁判の争点は2つ。

 1つは、大津波が原発を襲う危険を予見することは可能だったか。言い換えれば、国の地震調査研究推進本部(推本)が2002年に公表した、福島沖でも津波地震が起こり得るとする予測(長期評価)は信頼できるものか。もう1つは、予見できたとしても、有効な対策をとって結果を回避することは可能だったか。

 第27回公判までの証人調べを通じて「推本の長期評価は科学者のコンセンサスだった」「東電の土木部門は長期評価を取り入れた津波対策が検討していたが、08年7月31日の会議で武藤被告が対策先送りを指示した」「敷地内に防潮壁を築くなどの工事をすれば11年3月に間に合い、事故は避けられた」等の事実が次々と裏付けられていった。

 中でも注目すべきは、山下和彦・元東電中越沖地震対策センター所長の供述調書だ。刑事訴訟法の規定に基づき、弁護側不同意のまま裁判長が証拠として採用したもので、「津波対策実施の方針は常務会も承認していた」「それが覆された理由は、最悪、原発を止められてしまう恐れがあったこと」などとしている。

 山下調書の内容は、証人として出廷した日本原電元社員の供述―東電土木部門の責任者が「柏崎刈羽も止まっているのに、これに福島が止まったら経営的にどうなのかって話でね」と説明していた―とも重なる。

 本書出版直前の第30〜34回公判(10/16〜10/30)で被告人質問が行われたが、3被告は“知らぬ存ぜぬ”を通した。武藤被告は「先送りと言われるのは大変に心外」「山下さんは本当にそんな供述をしたのか」と気色(けしき)ばんだ。

 原発犯罪の根を断つには犯罪者に責任をとらせなければならない。刑事訴訟の動向が避難者賠償請求訴訟の審理に影響することは、刑事訴訟で被告側の主張に沿う証言をした学者を民事訴訟で国が証人申請していることからも分かる。

 本書とともに「厳正な判決を求める署名」を広げ、有罪判決をかちとろう。
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