2019年01月04・11日 1558号

【軍事大国化のため社会保障費削減 年金支給年齢引き上げも】

 安倍政権は12月10日、経済財政諮問会議に「新経済・財政再生計画改革工程表2018(原案)」を提出した。

 「工程表」は、社会保障、社会資本整備、地方行財政・分野横断的な改革、文教・科学技術、歳出改革の5つを大項目として挙げている。その狙いは、2019年度から3年間で社会保障費などの歳出抑制策を明示して社会保障を主な攻撃の的にするものだ。

 安倍政権は、来年度予算案で社会保障費自然増分を1200億円も削減しようとしている。政権発足以降の6年間で、すでに社会保障費削減額が3兆8850億円以上にのぼっており(10/26しんぶん赤旗)、さらなる削減は市民の生活をますます窮地に追いやる。

 こうした攻撃に対抗するために社会保障の意義は何度も強調されなければならない。

工程表で削減に拍車

 「工程表」は、「すべての世代が安心できる社会保障制度へと3年間で改革」を主な取り組みの一つにしている。これは、高齢者への予算配分を削ってその分を他の世代に振り向けるに過ぎず、決して社会保障予算を増やすものではない。安心どころか不安を高めるだけなのだ。

 具体策には、公的年金の受給年令を70歳以上も選択可とするための検討が挙げられている。そして、2019年度に法案提出を明記した。これは、公的年金受給年齢引き上げの布石である。

 公的年金受給年齢引き上げのためには高齢者の働き口拡大が不可欠となり、工程表は「まずは1年かけて生涯現役時代に向けた雇用改革を断行」と唱えている。そのために、「生涯現役社会」「多様な就労・社会参加」などというわざとらしい空疎な用語を多用しながら、「元気で働く意欲のある高齢者の雇用機会のさらなる拡大に向けた環境を整備する」。高齢者になっても働き続けろ≠ニ無理やり就労を押しつけているのだ。

 また、病床削減を進めることが強調されている。地域医療構想で2025年までに病床数が135万床から119万床に減らされる予定だ。だが、病床削減や削減に向けた協議をする医療機関は多くない。業をにやした厚労省は、6月22日に通達を出して削減を加速するよう指示した。

 「工程表」でも、地域医療構想調整会議で「具体的対応方針について合意に至った医療施設の病床の割合」を2019年度末までに50%の目標が掲げられ、安倍政権は病床削減に拍車をかけている。

社会保障は国家責任

 大企業優先で軍事大国化をすすめる安倍政権は、財源を生み出すために社会保障費削減攻撃を強めている。これは、社会保障に不可欠な国家責任を縮小させることでもある。

 憲法第25条第2項で「社会保障」という用語が初めて使われ、社会保障制度審議会が1950年に出した勧告でその定義が行われた。そこでは社会保障の国家責任が明記されている。60年代に入ると公的医療保険と公的年金が整備されていく。その後、さまざまな制度が確立された。

 これに対し、80年代には臨調行革路線による「福祉見直し論」が登場する。この策動は国家責任の縮小を狙ったが、狙い通りには行かなかった。

 社会保障制度審議会は、「社会保障の理念等の見直し」として1993年、「国民の生活の安定が損なわれた場合に、国民にすこやかで安心できる生活を保障することを目的として、公的責任で生活を支える給付を行う」と社会保障を再定義したが、まだ公的責任が明記されている。

国家責任の解体許すな

 ところが、新自由主義路線を強める自民党政権は、社会保障の国家責任を弱め、縮小することをもくろむ。「自助努力」の強調はそのための世論操作であり、その理念を社会保障制度審議会の「社会保障体制の再構築」と題した1995年の勧告に反映させた。勧告では「社会保障制度は、みんなのためにみんなでつくり、みんなで支えていくもの」と、国家責任が削除された。「『国家』は『みんな』の中に雲隠れし、社会連帯は国家責任なきそれに変質」(池田和彦『社会保障構造改革の経緯とその特徴』)したのだ。

 以降、さまざまな方法で社会保障制度の空洞化・解体攻撃が仕掛けられてきた。現在、も医療、介護、年金、生活保護などすべての分野で攻撃が続けられている。

 社会保障の歴史を振り返ると、底流に国家責任をめぐるせめぎ合いがある。国家責任の強化こそが社会保障充実の道であることを訴えよう。

 
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