2019年01月04・11日 1558号

【国・東電追及する原発賠償訴訟 言い訳にもならない国の弁論】

 福島原発事故から7年半が過ぎ、政府は原発事故を終わったものにしようとしている。しかし、それを許さない原発賠償訴訟が全国各地で起こされ、国の責任を問う5つの訴訟の一審判決のうち4判決が国の責任を認めた。危機感を抱いた国は各訴訟や控訴審に膨大な準備書面を提出し、巻き返しを図っている。

控訴審で国がプレゼン

 12月14日に大阪高裁で行なわれた原発賠償京都訴訟の控訴審第1回口頭弁論でも、国側代理人が30分を費やして弁論し、「原発に求められているのは絶対的安全ではなく相対的安全」「長期評価は成熟度が低いので、決定論ではなく、確率論として扱う」「土木学会手法(津波評価技術)こそ理学的知見に基づいていた」など市民には分かりにくい用語を使って、あれほどの津波が来ることは予見できなかった≠ニ主張した。だが、報告集会で責任論担当の森田弁護士は「今日のプレゼンを聞いて、恐れるに足りないと確信した」と述べた。

 2002年7月、国が設置した地震調査研究推進本部が、過去400年間に3回起こった日本海溝沿いのM8クラスの津波地震が三陸沖北部から房総沖までのどこでも起きる可能性があるという長期評価を発表した。当時の規制機関である原子力安全委員会は長期評価を取り入れた新しい耐震設計審査指針を策定し(2006年9月)、原子力安全・保安院は既設の原発については運転しながらバックチェックを3年以内に終わらせるよう電力会社に指示した。

 東京電力幹部たちも「津波対策は不可避」という認識を持っていたが、「長期評価は確率論で扱う」と対応を引き延ばした。計算した津波高が15・7bになり、10bの防潮堤が必要とわかると、運転停止を求められることを恐れ、最終的に津波対策を先送りした。そのための理屈が、「土木学会に検討を依頼している」というものだった。

 だが、土木学会手法は長期評価にとって代わるようなものではない。千葉地裁で証言台に立った佐竹健治・東大教授(地震学)も「そもそも土木学会の津波評価部会では、個別の地域で地震発生可能性というようなことを議論はしておりません。それは長期評価部会でやっていること」(2015年11月13日)と述べている。

 このように「長期評価は確率論で扱う」とか「土木学会へ依頼」などで言い逃れをしていたのは東電であって、国の機関ではない。東電の立場を代弁するような国側の弁論は、規制権限の不行使を問われている自らの弁護(言い訳)にもなっていない。

東電主張を証人自ら否定

 12月13日、東京高裁で開かれた原発賠償群馬訴訟の控訴審第4回期日では、被告側証人が東電や国のこれまでの主張を否定する証言を行なった。

 証言台に立った今村文彦・東北大教授(津波工学)は、原告側の久保木弁護士の尋問に対し、「土木学会手法は福島沖で将来津波が起きるかどうか、詳細な検討はしていない」と証言。それを覆そうと東電の代理人が表現を変えて質問を繰り返したが、今村教授は「土木学会手法では検討していない。2003年以降の検討課題だった」と証言を変えなかった。

 東電や国は「津波評価技術における想定津波(敷地高を超えない)による津波対策が合理的でかつ、十分であった」と主張しているが、今村証言はそれを否定する意味を持つ。

水密化で防げた可能性も

 もう一つの焦点である結果回避可能性(津波対策をしたとして原発事故を防げたかどうか)でも、今村教授は注目される証言をした。「(浸水を防ぐ)建屋の水密化は事故前の考え方でも可能だった、それで事故が防げた可能性は高くなっただろう」と述べたのだ。翌14日の京都訴訟控訴審で国側代理人は「原告側がいう水密化などは事故が起きた後に考えた後知恵だ」と主張したが、前日に自分たちが立てた専門家証人によって否定されていたわけだ。

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 東電刑事裁判を通じて、東電経営陣が安全よりも利益を優先して対策を怠った結果、原発事故を引き起こしたことが明らかになっている。国が自ら果たすべき役割も否定する「理屈」を主張し始めたのは、焦りの表れだ。刑事裁判、各地の賠償訴訟を支援し、東電、国の責任を司法の場でも確定させなければならない。

 
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