2019年01月04・11日 1558号

【安倍“原発輸出政策”すべてが暗礁に/世界の反原発運動の力だ】

 12月4日、「政府と三菱重工業が進めてきたトルコへの原発輸出を断念する方向で検討」と報道された。また、経団連の中西会長は16日、自らが会長を務める日立製作所が英国で進める原発計画について「難しい。もう限界だと思う」と述べ凍結を示唆した。日本政府の原発輸出政策はすべて暗礁に乗り上げた。

トルコ断念 英国も凍結

 トルコ北部、黒海に面するシノップ原発建設計画は110万kwの最新鋭加圧水型軽水炉4基を建設するものだ。当初の事業費は220億ドル(2・5兆円)とされ、2017年に着工する予定であった。報道では「東電福島第一原発事故後に求められた安全対策のために建設費が高騰。今年7月末には三菱重工が当初の2倍にあたる5兆円にのぼる調査報告書をまとめ、両政府に検討を求めたが、トルコの通貨リラの暴落もあり、建設費を捻出することが難しくなった」と言われている。

 日立製作所が英国・ウェールズのアングルシー島で計画するウィルヴァ原発の建設も暗礁に乗り上げている。これは、日立がフクシマ事故後の2012年に買収した電力会社ホライズン・ニュークリア・パワーが、2020年代の早い時期に2基の沸騰水型軽水炉を建設するというもの。当初、1兆円と想定されていた建設費は、トルコと同じ理由で3兆円に高騰、日立は、経団連会長となった中西会長が5月に訪英し、メイ首相からこのうち2兆円を英側が融資する約束を取り付けた。この融資分は、英国の「差額精算型固定価格買い取り」制度で電気料金に上乗せして回収するのだが、何と日立は市場価格の2倍の買い取り価格を要求している。残りの1兆円は、リスク軽減のために出資でまかない、自社の持分比率を100%から50%以下にして連結決算対象外とする方針とした。

 「損失の責任が本社に及ばないように」とする日立の手前勝手な方針には、東芝がウェスチングハウスを買収した後、海外原発事業で膨大な損失をつくり、事実上この事業から撤退した「二の舞は避けたい」という思惑が見て取れる。しかし、中西会長は「(出資者を募集したが応じる企業が少なく)極めて厳しい状況に直面している」と雑誌のインタビュー(週刊ダイヤモンド、12月5日付)で答えていた。どの企業も原発リスクを引き受ける気などさらさらない。事実、2018年8月、この原発建設を担う企業連合「メンター・ニューウッド」(日立、日揮、米ベクテル)の解散が発表された。ベクテルが「高騰する建設費を懸念して工事主体になることを避けた」のである。今や原発事業は採算の取れる事業≠ナはないことが明らかである。


「成長戦略」 目玉政策破綻

 原発輸出は、2012年の第2次安倍政権発足時に打ち出された「アベノミクス第三の矢」である成長戦略の柱としての「インフラシステム輸出戦略」の事実上の目玉と位置付けられた。そして、安倍首相は「トップセールス」と称して各国に日本製原発を売り込んできた。トルコ、英国ともに計画は、フクシマ事故以降に始まっており、安倍政権が事故の責任を取ることより、原発輸出ありきで奔走してきたことは明らかであろう。

 トルコや英国での建設計画の破綻の原因は、直接的には建設費の高騰であるが、これは(1)フクシマ事故以降の安全対策費の高騰(2)工事の遅延が背景にある。これをつくりだしているのは、土地の取り上げなどに反対して工事を遅らせてきた現地住民を始めとする運動の力である。トルコでは、2018年もチェルノブイリ事故が起きた4月に大規模な反対集会が開催され、英国アングルシー島では、福島原発事故避難者を招き集会が開催された。インドでも粘り強い闘いが続けられている。各国の運動は、日本の原発再稼働反対、避難者支援の運動と結びついているのだ。

 安倍首相は1月9日、メイ首相と日立のウィルヴァ原発建設について意見を交わし、日立はその後最終判断をすると報道されている。原発企業が及び腰になる中、アベノミクスの幻想にしがみつく日本政府は、政府系金融機関の出資額を増額することを約束する可能性がある。公的資金拠出に反対することはもちろん、危険なプルトニウムを生み出し被曝を強要する原発の輸出を完全に止めるために、世界の反原発運動と連帯して正念場を闘いぬこう。

(コアネット<戦略ODAと原発輸出に反対する市民アクション>三ツ林安治)

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