2019年01月04・11日 1558号

【非国民がやってきた!(297) 土人の時代(48)】

 12月4日、京都地裁に提訴された琉球人遺骨返還訴訟の訴状を紹介しておきましょう。

 第1に原告は、亀谷正子、玉城毅、松島泰勝、照屋寛徳、金城実の5名です。亀谷正子及び玉城毅は沖縄県今帰仁村運天にある百按司墓(むむじゃなばか)と呼ばれる墓所に葬られていた第一尚氏の子孫です。松島泰勝は龍谷大学教授、照屋寛徳は国会議員、金城実は彫刻家であり、いずれも先住民族たる琉球民族です。

 被告は国立大学法人京都大学です。

 第2に「請求の趣旨」は、「被告は、原告らに対し別紙『遺骨目録』記載の遺骨(合計26体)を引き渡せ。」です。さらに、原告らにそれぞれ10万円を支払えという慰謝料請求です。

 第3に「請求の原因」は、まず「盗掘及び被告の占有」です。「1928年から1929年、被告(旧京都帝大)助教授であった人類学者・金関丈夫が百按司墓等から少なくとも人骨59体を持ち出した。そして、被告は現在、本件に関し、26体の遺骨を占有している」とします。さらに「原告松島及び同照屋は、2017年5月12日以降被告に対し、本件遺骨に関する情報の開示等を求めたが、2018年3月以降は、被告は何らの対応も行うことはなかった」と言います。

 次に訴状は「百按司墓と琉球独自の習慣」として「百按司墓は、沖縄県今帰仁村に存在する古墓であり、北山時代から第一尚氏時代の貴族及びその一族の墓であると考えられており、本件遺骨は、北山時代から第一尚氏時代の貴族及びその一族のものと考えられている。そして、琉球では祖先の霊魂が神となった『祖霊神』が子孫を守ってくれるものとして崇拝されてきたが、この祖霊神は祖先の遺骨に宿ると考えられ遺骨そのものが『骨神(ふにしん)』として崇拝の対象とされている」としています。

 返還請求権を基礎づける法的根拠は、訴状によると4つあります。

(1) 憲法第20条による信仰の自由及び宗教的行為を行う自由

(2)憲法第13条による宗教的自己決定権としての祖先祭祀に関する自由

(3)「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第27条による「民族的マイノリティの権利」

(4)系譜、祭具及び墳墓(遺骨も含む)の「所有権(管理権を含む)」は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継するとする民法897条1項

 さらに訴状は国際人権法上の要請を示すために、国際人権機関が日本政府に対して行った勧告や、国連総会が採択した先住民族権利宣言を引き合いに出します。
(1) 2008年10月30日の自由権規約委員会による総括所見は、琉球民族を国内法で先住民族と明確に認め、彼らの継承文化や伝統的生活様式を保護、保存及び促進する特別な措置を講じるように、日本政府に勧告しました。

(2)2018年8月28日の人種差別撤廃委員会による総括所見は、琉球の人々を先住民族として認識することに関して、日本は、その立場を再検討すること、及び彼・彼女たちの権利を保護するための措置を強化するよう勧告しました。

(3) 2007年9月13日、国連総会第61会期に採択された「先住民族の権利に関する国連宣言」は、宗教的及び文化的な場所を維持し保護し、儀式用の物の使用と管理の権利、人間の遺骨などの返還に対する権利について述べています。

 これらを踏まえて、原告は遺骨の引き渡しを求めるとともに、慰謝料を請求しています。金関丈夫によって盗掘された本件遺骨の違法占有状態の継続は原告らの上記各権利を侵害するものであり、被告の返還交渉に対する不誠実な対応及び返還拒絶行為は不法行為に該当するからです。

 以上が訴状の概要です。日本国憲法第13条、第20条、及び民法を根拠とするとともに国際人権法上の民族的マイノリティの権利と先住民族の権利を主張する点に特徴があります。
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