2019年02月01日 1561号

【イラクと日本/「シリア撤退」を発表したトランプ大統領/追い詰められる戦争政策】

 昨年12月19日、トランプ米国大統領は「IS(「イスラム国」)に対する歴史的勝利の後、偉大な若者たちを帰国させる時だ!」としてシリアから約2千人の米軍を撤退させると発表した。

 翌日、これをうけてマティス米国防長官は辞任を表明したが、1月2日の米国政府閣議でトランプ大統領自らがマティスを事実上更迭したことを明らかにした。1月11日には在英の民間団体「シリア人権監視団」が、米軍がシリア北東部ハサカの軍事基地から10日夜に撤退を開始したと発表している。

 米国の反戦運動は「米軍の撤退は正しい方向への一歩」(アバウト・フェース=元IVAW[反戦イラク帰還兵の会])、「トランプのシリア撤退決定に拍手喝采する」(コードピンク=女性反戦団体)と戦争政策に反対する闘いの成果であると表明している。

中東戦略の失敗

 トランプが米軍内部の反発さえも抑えてシリアからの撤退を開始したのはなぜか?

 米国は「対テロ戦争」の名の下で現在もアフガニスタンに1万6千人、イラクに5200人の兵力を駐留させている。そして2010年末からの中東・北アフリカ民主主義革命(いわゆる「アラブの春」)以来アサド政権の市民弾圧を口実にシリアへの軍事介入を続けてきた。

 シリアに対しては、18年の11月だけでも米軍を中心とした「有志連合軍」は空爆を634回くりかえし、少なくとも221人の市民が死亡、その65%は女性と子供であった。この死者数は10月の2倍以上である。

 しかし、米国はロシアとイランが支援するアサド政権を倒すことはできなかった。

 ストップ戦争連合(英国)は「トランプの不愛想な発表は20年にわたる米国の戦略の失敗をそれとなく認めているのである」と指摘している。莫大な戦費と戦死者を出し続ける中東における戦争と反戦世論に、米国政権は耐えられなくなってきたのである。 

軍事支援停止決議

 12月13日、中間選挙でトランプ与党の共和党が過半数を維持したはずの米国上院で、米国政府によるサウジアラビアへの軍事支援停止を要求する決議が賛成56、反対41で可決された。決議案を共同提案した民主的社会主義者のバーニー・サンダース議員は「我々は今日、サウジアラビアの独裁的な政府に対し、サウジの軍事的冒険にアメリカは参加しないと伝える」と訴えた。

 そして同じ12月中旬、中間選挙で下院議員に当選したばかりのアメリカ民主主義的社会主義者(DSA)所属のラシダ・トレイブ(両親はパレスチナ出身)とアレクサンドリア・オカシオコルテスが、AIPAC(エイパック=アメリカ・イスラエル公共問題委員会)の主催するイスラエル訪問ツアーを拒否した。AIPACは豊富な資金を持つロビイスト団体であり、米国が多額の軍事援助と武器を提供しているイスラエルのパレスチナ侵略を支持させるために新任議員のツアーを組んできた。これに対抗してこの2人の社会主義者はイスラエルの軍事支配の真実を調査する独自ツアーを議員たちに呼びかけている。

 差別と排外主義、戦争政策を進めるトランプ政権は、中東支配政策においても昨年の11月の中間選挙にみられる国内の世論と議会から次々と追い詰められているのである。

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