2019年02月01日 1561号

【未来への責任(266)/加害の責任に向き合う努力を】

 昨年10月30日の韓国大法院判決からすでに2か月半以上が経過した。確定判決が出たにもかかわらず、新日鐵住金は判決を受け入れる姿勢を見せていない。

 1月16日の記者会見で同社の進藤孝生社長は「(日韓)請求権協定では『徴用工等』と、きちんと書いている。国際法の中では(賠償という)議論はできない、というのが我々の理解だ」と述べたという(1/16付「朝日」)。「我々の考え方は日本政府とまったく同じだ」と強調したともメディアは書いている。政府と同一歩調をとっていれば安心だとでも思っているのであろうか? 大きな間違いだ。

 第1に、旧日鉄=新日鐵住金は戦時中に8千数百人もの朝鮮人を動員し、働かせていたという事実から逃れることはできないからである。しかも、その労働は強制労働であった。国際労働機関(ILO)が強制労働禁止条約違反であったと認定しているだけではない。大阪地裁・高裁でも、強制労働であり違法であったとして日鉄の賠償責任を認めている。そのことに頬かむりし、被害者に謝罪もせず、確定判決にも従わないのでは、「無法企業」として国際的にもまずい立場に追い込まれることがわかっていないのだろうか。

 第2に、新日鐵住金は判決に従わない(=債務不履行)ことにより、遅延損害金を発生させ、毎日“損”をする事態が進行している。これを株主に説明できるか。

 韓国では、10月30日の大法院判決以降、強制動員訴訟で原告の請求を認める判決が次々に積みあがっている。11月29日には、広島元徴用工訴訟、名古屋女子勤労挺身隊訴訟で大法院が三菱重工に賠償を命じる判決を出した。これで大法院で原告勝訴が確定した判決は3件となった。また、高裁レベルでは、光州(クヮンジュ)高裁で2件(いずれも名古屋三菱女子勤労挺身隊訴訟)、ソウル高裁で3件(新日鐵住金、日立造船、不二越訴訟)、強制連行企業に賠償を命じる判決が出されている。この5件はたとえ上告されたとしても覆る可能性はない。

 このように強制動員訴訟で企業の責任が認定され、「強制動員慰謝料請求権」に基づき企業に賠償を命ずる司法判断が定着する中、日本のメディアにも一定の変化が出ている。琉球新報は「元徴用工訴訟の訴訟は2000年に提訴され、一、二審で敗訴。12年に最高裁(大法院)が個人の請求権は請求権協定では消滅していないとして高裁に審理を差し戻した。この時点で今回の判決は予想できたはずである。和解を含めた解決が模索されるべきではなかったか」と述べ、「根本には、この間、日本が加害の歴史、責任に十分に向き合ってこなかったことがある。政府は判決を冷静に受け止め、被告企業とともに被害者が受けた痛みについて真剣に考えるべきである」と促した(11/30社説)。信濃毎日新聞も「過去に結んだ協定も歴史の評価にさらされ、問い直されることもあり得る」と述べている(12/4社説)。真っ当な指摘、主張である。こうした論調を世論の主流へと転換していく日本の市民の努力が問われている。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

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