2019年02月01日 1561号
【「福島は安全」論文の大ウソ/御用学者・早野龍五がデータねつ造/個人被曝線量を3分の1に】
|
早野龍五・東大名誉教授らが英国の科学誌に発表した福島の被曝をめぐる論文の中で、被曝線量が実際の3分の1に改ざんされていたことが発覚。本人が誤りを認めたことが先日報道された。テレビではあまり見かけないが、この早野龍五、原発事故に関してはウソつき御用学者の代表的肩書「東大教授」に恥じない悪党ぶりである。「福島は安全だよ」と優しく囁(ささや)く早野は、福島帰還政策を強行する政府にとって最大の功労者なのだ。
安全神話の確信犯
問題となった早野論文は宮崎真福島県立医科大学助手との共同によるもので、英国の放射線関係科学誌に掲載された。この論文をめぐっては、高エネルギー加速器研究機構(国立大学法人の一種で研究機関)の黒川眞一名誉教授が「データに矛盾がある」と指摘していた。
早野論文は、福島県伊達市でのガラスバッジによる放射線量測定データと事故直後の文科省が行った航空機による空間線量モニタリングの結果を比較。前者が後者の0・15倍の数値であったことから、空間線量率から実効線量(身体に影響を与える線量)への換算係数は0・15でよいと主張する。福島での被曝の影響を過小評価するのみならず、「伊達市で最も汚染された場所に70年間住み続けても被曝線量は18ミリシーベルトを超えない」と結論づけている。
そもそも自然環境からの外部被曝の影響は360度あらゆる方向から受けているのに、ガラスバッジは装着している方向からの被曝影響しか測れないため、ガラスバッジによる測定自体に強い批判がある。早野は、環境省が2011年に採用した換算係数0・6は「4倍も厳しすぎる」と難癖を付けるが、前後左右から受けるはずの外部被曝の影響をガラスバッジによって前からだけに限定して測定しているのだから、線量が実際の4分の1になるのは当たり前だ。環境省の換算係数が被曝防護にとって十分だとは思わないが、少なくとも「早野基準」より合理的なことが逆に明らかになった。
これだけでも十分犯罪的なのに、早野は今回の論文で決定的なねつ造を犯した。ガラスバッジに記載された1か月分の被曝線量を3か月分として集計、結果的に個人の被曝線量を3分の1に過小評価したのである。
早野の「ニセ論文」は、住民の被曝防護基準を審議する放射線審議会でも使われている。過小評価された基準に基づいて避難や帰還の基準が決められるのだ。
中身ゼロの安全論
早野は、ホールボディーカウンター(WBC)による内部被曝線量測定で、福島産米を食べた住民から最大300ベクレルの数値しか検出されなかったことを根拠に「福島産米を食べてもよい」などと主張。放射性セシウムの生物学的半減期が3か月とされている(3か月より前に摂取したセシウムによる被曝をWBCでは半分しか測れない)ことを無視した根拠なき安全論を、坪倉正治(南相馬市民病院医師)らとともに振りまいてきた。
地元住民に安全論を刷り込むための広報活動にも取り組んだ。放射能安全論に立って活動してきた市民団体「ベテランママの会」の書籍を監修。ベテランママの会はあの安倍昭恵首相夫人も賛同に加わった団体だが、女性代表が当時の東京電力副社長と関係を持つという呆れた事件で事実上解体に追い込まれた。非科学的で無根拠な福島安全論を振りまく連中のデタラメぶりと哀れな末路だ。
早野は、「ほぼ日刊イトイ新聞」の発行人でコピーライターの糸井重里との共著『知ろうとすること』も出版している。糸井は、自分は「より正義を語らないほう、よりユーモアのあるほう」の意見を参考にするとツイートしている。住民の健康や生命という深刻な問題をユーモアと同列に並べ嘲笑する御用文化人だ。
「朝日」に批判の資格なし
朝日新聞は1月9日付の紙面で、早野論文が1か月分の被曝線量を3か月と「誤集計」した部分に絞って批判的に報道している。大岩ゆり記者など3記者の連名による記事だ。だが、早野本人を情報源として、過去、誤った福島安全論をさんざん発信してきたのは当の大岩記者である。
たとえば、「福島の高校生、被曝線量調べた 国内外と比較、仏で発表へ」(2015年3月21日付記事)と題した大岩記者の署名記事では「避難区域以外では、福島県内とそれ以外の地域は大きな差がなかった」という地元の高校生の声を伝えている。高校生を使った早野の安全デマキャンペーンのお先棒を朝日と大岩記者は担いできた。
原発事故は「政・官・財・学・報」の鉄の五角形によって引き起こされた。原発推進の責任はメディアにもある。早野論文を批判する前に、朝日と大岩記者は自己批判すべきだ。
(水樹平和)
|
|