2019年02月08日 1562号

【原発賠償訴訟で敗訴続く国/従来と異なる新主張「確率論で評価」/何もしない無責任の上塗り】

 全国各地で原発事故被害者が国と東京電力に損害賠償を求めた原発賠償訴訟で、すでに出た5つの地裁判決のうち4地裁判決(前橋、福島、京都、東京)が国の責任を認めた。その敗訴を受け、最近国は一審でも控訴審でもこれまでとは異なる主張をし始めた。

 キーワードは「確率論的安全評価」。この用語を使って裁判官を煙(けむ)に巻こうとしている。

対策を先送りする方便

 国は、地震調査研究推進本部(推本)の「長期評価」(2002年7月公表)の取り扱いについて、「東電が専門家の意見も踏まえて、これを決定論ではなく確率論で取り扱っていく方針であるとの報告を(当時の保安院が)受けて了承した」が、このような対応は正当な判断だったと主張し始めている。だが、これまで国は「確率論的安全評価」について、「安全規制に取り入れるためには多くの解決すべき問題があり、活用する段階に至っていなかった」と否定的な見解を述べていた。それを突然、東電が福島沖を震源とする津波地震について確率論で取り扱うことには正当性があったかのような主張に変えてきたのだ。

 過去の経過を振り返れば、長期評価の公表を受けて、保安院は東電に「津波地震が福島沖で発生したらどういう津波が来るのか、計算してくれ」と要請。東電は40分抵抗して、「確率論で検討する」とその場を逃れた。だが、確率論的安全評価を津波に適用した津波ハザード評価の手法は、長期評価公表当時はもちろん、原発事故当時でも確立されていなかった。国際原子力機関(IAEA)の報告書(11年11月)でも、「確率論的アプローチを用いた津波ハザード評価の手法は提案されているが、標準的な評価手順はまだ開発されていない」と指摘されているのだ。

 また、東電刑事裁判の中で、東電の津波対策担当者が、日本原電との打ち合わせ(07年11月)で「これまで推本の震源領域は確率論で議論するということで説明してきているが、この扱いをどうするかが非常に悩ましい(確率論で評価するとは実質評価しないこと)」と発言したことが明らかになっている。つまり、東電が説明していた「確率論で検討する」とは、長期評価が指摘した福島県沖の津波地震による津波の計算に着手することを拒み、巨大津波対策を先送りするための方便だったのである。

東電自身が報告

 もともと福島第一原発が津波に対して極めて脆弱だったことは、06年5月に開かれた溢水(いっすい)勉強会(保安院と原子力安全基盤機構が立ち上げ、各電力会社が参加)で示されていた。すなわち、敷地高を1b超える津波が襲来した時には、非常用海水ポンプが全て使用不能になり、電源設備が機能喪失し、それによって原子炉の安全停止に関わる動的機器が機能喪失する可能性を東電自身が報告していた。

 そして、長期評価に基づき福島沖を震源とする津波地震による津波の計算をすれば、敷地を1b以上超える津波が襲来することはすぐにわかったはずだ。現に東北電力は、長期評価の公表の5日後にシミュレーション結果を保安院に報告している。遅くとも東電が東電設計から津波の計算結果を知らされた08年3月以降、すぐに対策(運転停止も含めて)を講じていれば、今回のような大事故には至らなかった。

現実の巨大地震で破綻

 いくら東電や国が「長期評価には信頼性がなかった、未成熟だった」と主張しようと、それは敷地高を超える巨大津波が実際に福島第一原発を襲ったという事実によって否定され、すでに破綻している。

 東電刑事裁判は3月に結審する。これまでに、中越沖地震の影響で柏崎刈羽原発が運転停止になっている上に、福島第一原発までもが対策工事の完了まで運転停止を求められるのを恐れた経営陣が津波対策を先送りしたことが明らかになっている。

 原発賠償訴訟でも、刑事裁判で明らかになった事実や証言も使って反論すれば、本来国の言い逃れが認められる余地はない。この当然の理屈や事実に目をふさぐ不当な判決を決して許さないためには、一層世論を広げ、各訴訟で傍聴席を満席にして、国民が注目していることを裁判所にわからせることが重要だ。

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