2019年02月08日 1562号

【国立大学の学費値上げSTOP/東京・足立区でタウンミーティング/教育無償化はまちづくりのカギ】

 国立の東京工業大学と東京芸術大学がこの4月から、年約10万円(20%)もの大幅な授業料値上げを行おうとしている。東京芸大のキャンパスの一つがある東京・足立区で「給付型奨学金が進められている時に、学費値上げとは許せない」「他の国立大、私立大の学費値上げにも波及しかねない」と反対運動が始まった。

 「平和と民主主義をともにつくる会・東京」会員の足立在住者が「足立区は”文教のまち”づくりとして、積極的に区内に大学を誘致してきた。値上げに見て見ぬふりをしていいのか」と憤慨。昨年11月、区議会に「国に対し『国立大学授業料値上げを規制し、あらゆる学費の無償化に向けた法的・財政的措置を講ずることの意見書』を提出するよう求める陳情」を出した。継続審議となったが、教育長から「(無償化の流れに)逆行している」との言質(げんち)を引き出した。

 意見書提出を促そうと、今年に入って近藤やよい区長宛ての署名を開始した。乗降客の多い北千住駅前で呼びかけ、わずか1週間で集めた100筆を第1次分として1月22日に提出。会代表の土屋のりこ区議は「孫が困ると署名する年配者、今の生活も苦しいのにとサインする中高校生。関心の高さを実感した」と語る。

 会は1月27日、「教育無償化はまちづくりのカギ」と題して学費値上げに反対するタウンミーティングを開催。約30人が集い、「漸進(ぜんしん)的無償化立法を求める会」事務局長の渡部昭男神戸大教授が講演した。

 「足立のような陳情が全国に広がればいいと期待し、ホームページに陳情書をアップした」と言う渡部さん。

 学費を捉える基本視点を提起する。「ただかどうかの損得勘定からではなく、青年の発達を保障していく上で大切な問題としてみるべきだ。日本政府は中等・高等教育無償化の漸進的導入をうたった国際人権A規約13条2項(b)(c)を留保していたが、2012年に撤回。これによって無償化義務に拘束されることになった」

 昨年10月、日弁連は「若者が未来に希望を抱くことができる社会の実現を求める決議」を上げた。渡部さんは「決議が、『生まれた家庭』の経済力によって受けられる教育が左右され、高等教育における学費の高騰等により進学できない若者も少なくないと指摘し、『すべての教育の無償化』を求めていることに注目した。重要なのは、具体的な方法論、立法政策を検討する段階に入ったということ」と指摘する。

 漸進的無償化プログラムも紹介。学費自体の軽減や給付型奨学金の拡充、学習費・家賃補助、就労支援、若者手当など、トータルに提起している。渡部さんは「無償化の“足立プラン”を市民の手でつくってほしい」と訴えるとともに、韓国の取り組みについて「ソウル市立大学は授業料を半額に。給付型奨学金は日本2万人、韓国120万人。教育を権利として捉え、所得制限を設けない普遍主義に近い政策をとっている」と評価した。

 求める会は、学費を苦にした中退や奨学金破産といった現実がある中で教育無償化をしないのは「人権侵害」に当たるとして昨年11月、日弁連に人権救済を申し立てている。求める会顧問の戸塚悦郎弁護士は「学費値上げは国際人権A規約違反。フィンランドでは、なぜお金をとるのか理解できないという。親が子どものためにお金を出すのではなく、社会全体で大学教育まで面倒見る、と考えを転換しなければならない。イギリスの大学院で一緒だった朴元淳(パクウォンスン)現ソウル市長は、社会の民主化に熱心だった。韓国は社会を変えようというエネルギーがすごい。今日のような集まりが全国にあれば違ってくると思う」と励ます。

 土屋区議は「2月に第2次署名を提出する。足立区は積立金を年々増やし、来年度は1600億円にもなる。財源がないとは言わせない」と力説した。



 
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS