2019年02月15日 1563号

【本当のフクシマ/原発震災現場から/番外編8/隠されてきた事実が明らかに/御用学者のウソ、隠蔽、二枚舌/市民の監視・批判が今後も必要】

 御用学者たちの情報隠蔽や「二枚舌」がここに来て相次いで明らかにされつつある。安倍政権の弱体化か。原発輸出がすべて頓挫し、原子力の退潮が世界的にはっきりしつつある中での原子力ムラの規律の緩みなのか。真相は不明だが、隠されてきた事実が明るみになることの意義は大きい。

11歳少女の大量被曝

 福島第1原発のある双葉町で、事故当時11歳の少女が甲状腺等価線量100ミリシーベルトの被曝をしていたというニュースを1月21日、各メディアがいっせいに報じた。

 少女は福島原発の爆発当日、避難しないまま外で遊んでいたとされる。双葉町は大半が福島第1原発から10キロメートル圏内だ。東日本大震災によって原発が全電源喪失となった3月11日、原子力緊急事態宣言の直後に避難指示が出されたが、地震と津波に襲われた浜通りでは当時、ライフラインのほとんどが途絶。多くの地域で避難指示はきちんと伝わらなかった。外で遊んでいたこの少女を非難することはできない。

 問題なのは、この少女が甲状腺に100ミリシーベルトの被曝をした可能性があるとの情報を、測定した福島県職員から得た後、内部の会議で議題にまでしていながら公表しなかった放射線医学総合研究所(放医研)の姿勢だ。放医研は「会議で出た情報を基にその場で簡易的に算出したもの」であり、精密に検討していない数値だから公表しなかったと説明する。だが、放医研は「緊急被ばく医療体制の中心的機関」として「詳細な線量評価」「関係機関に対する助言や高度専門的な治療」を行うと国の指針で決められている。肝心なときに被曝線量の精密な検討を行わないなら職務放棄に等しく、何のための組織なのか。100ミリシーベルト以下の被曝では甲状腺がんの発生はないと主張してきた自分たちにとって不都合だから葬り去るつもりだったことは明らかだ。

 放医研は、過去に何度も被曝による健康被害を消そうとしてきた。事故直後の11年3月、収束作業中の作業員が高濃度汚染水に誤って足をつけ火傷を負う事故があったが、このときも放医研に送られた作業員は続報がないままうやむやにされた。17年6月、日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター(茨城県大洗町)で作業員が肺に2万2千ベクレルのプルトニウム被曝をした事故でも、放医研役員は「肺への被曝は間違いだった」などと言い出し、被曝をもみ消そうとした。この放医研役員・明石真言は福島県民健康調査検討委員や、ビキニ島水爆実験被害者への保険適用を審査する「有識者会議」座長も務める。御用学者たちはあらゆる放射能被害を隠蔽し続けてきたのだ。

山下俊一の「犯罪」

 「放射線の影響はニコニコしている人には来ない」との発言で全世界を唖然とさせた山下俊一。最近は名前を聞くこともめっきり減ったが、今なお福島県民健康調査の実施主体・福島県立医大で副学長を務める。その山下が、福島県民向けの講演会では冒頭のような非科学的福島安全論を唱えながら、放医研など国の機関に対しては「小児の甲状腺被ばくは深刻なレベルに達する可能性がある」との見解を伝えていたことも放医研の公文書から明らかになった。「ニコニコ」発言の講演会と「深刻」発言をした放医研との懇談はいずれも3月21日とされる。時と場所により180度正反対に発言を変える。絵に描いたような二枚舌は福島県内では周知の事実だが、放医研の公文書で確認されたことに大きな意義がある。

テレビからは消えたが

 多くの福島県民が山下を許せないのは、その後も飯舘村、二本松市など各地で「100ミリシーベルト以下でがんは起きない。外で遊んでも問題ない」発言を続けたことだ。「あなたが自分のお子さんを連れて砂場で泥んこ遊びをして証明できますか」との市民の質問にも「お安い御用です」と答えている。

 福島原発事故を機に市民が放射線と被曝について学習した結果「プルトニウムは飲んでも安全」と主張するような御用学者は確かにテレビ画面から消えた。だがそうした学者は事故前から二線級だった者たちであり、原子力ムラにとって真に守るべき一線級の学者は今も各地で要職に就いている。そのような学者たち(山下、明石、早野龍五ら)のウソ、隠蔽、二枚舌を私たちは今後も監視、批判し続ける必要がある。

 事故からまもなく8年。山下が子どもを連れて福島で泥んこ遊びをしたという報告は、まだ筆者の元には届いていない。

      (水樹 平和)
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