2019年02月22日 1564号

【どくしょ室/無子高齢化 出生数ゼロの恐怖/前田正子著 岩波書店 本体1700円+税)/解決策は安定雇用、まともな賃金】

 2017年の人口動態を見ると、1日当たり約1100人の減少となっている。このままでは書名のように「無子高齢化」が進んでしまう。この状況に対する著者の危機感は強く、副題も「出生数ゼロの恐怖」とするほどだ。

 少子高齢化は単なる自然現象ではない。その要因を把握せず、放置あるいは軽視してきた責任の所在はどこにあるのだろうか。

 著者は、少子化の背景として「戦後の人口動向を政府が読み誤ったこと」と「団塊ジュニアとポスト団塊ジュニア世代の未婚化」を挙げる。そして、この主な原因として、大企業と政府による人件費削減と非正規への置き換えがあり、その世代に被害が集中したためだ、と指摘している。

 1960年代に平均寿命が延びたため人口は増えていたのだが、若年人口は減っていた。そして、1969年の人口問題審議会は生産年齢人口が減少するとの答申を出していた。ところが、1980年の政府報告書がいずれ出生率は戻るとの見解を出すなど、政府は事実を見ようとしない。

 1970年代から90年代まで、生産年齢人口が多く、養育する子供や高齢者が少ない「人口ボーナスの時代」であった。その間のバブル景気も影響し、少子化という事実は人びとに認識されないでいた。

 1990年代以降は少子化について政府も理解するようになる。だが、「いつも施策は小出しで予算も少なく…抜本的な対策は取られなかった」のである。この状況は現在も変わることがない。そこには、少子化の原因を探ろうともしない、あるいは原因を知っていてもほおかぶりをする自民党政治という壁がある。

 本書は、第1章から第3章でこうした経過を押さえながら、第4章と第5章で対抗策に言及していく。

 では、著者が提示する対抗策は何か。それは章のタイトルに端的に表されている。第4章が「第三次ベビーブームは来なかった 『捨てられた世代』の不幸と日本の不運」、第5章が「若者への就労支援と貧困対策こそ少子化対策である―包括的な支援が日本の未来をつくる」である。

 若者にとって「結婚・出産はぜいたく品」になってしまった。これは比喩でもなんでもなく、不安定な雇用と低賃金におかれている若者が直面している現実なのだ。「若者の生活を犠牲にした社会は、その未来を自ら危機にさらしたのだ」、と著者は厳しく指摘する。

 そして、著者は具体的な対抗策として5つを提示している。それらをまとめると総合的な社会保障の再設計となるが、その一番目に貧困対策・雇用対策・所得保障を挙げている。なによりも、安定した雇用と普通に生活できる賃金が必要だからである。

 本書は、少子高齢化の原因を実証し、的確な対抗策を示している。  (I)
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