2019年03月01日 1565号

【沖縄新基地に軟弱地盤/埋め立て承認撤回理由を裏付け/国地方係争処理委 違法問わず】

 国地方係争処理委員会(係争委員会)は2月18日、沖縄県の「辺野古の公有水面埋め立て承認撤回を国土交通相が執行停止するのは違法」とする審査申し出を却下した。地方自治を守るべき第三者機関が国と一体となって、24日投開票の県民投票をつぶしに出たのだ。しかも、政府が約束した普天間基地運用停止の期限の日にだ。だが、沖縄県民は決して諦めることはない。県民投票の結果が答となる。

なりすましの違法行為

 沖縄県が処理委員会に審査を申し出たのは昨年11月29日。国交相は、同年12月27日に反論書を提出。県はそれに対する意見書を1月18日に提出していた。係争委員会は90日以内に結論を出さねばならない。期限となる2月28日までの間で県の申し出を却下するタイミングを計っていた。「違法な国の関与」にあたらないとする門前払いは、明らかに諦めを誘う県民投票つぶしだ。

 国交相は行政不服審査法(行審法)が救済の対象としていない国(沖縄防衛局)の訴えを受理し、権利侵害や回復不可能な緊急性もないにもかかわらず仮処分を行った。いわゆる沖縄防衛局「私人なりすまし」の問題だ。

 県はこれが違法だと正面から指摘していた。いわば、国交相が沖縄防衛局と結託して県行政を無力化し、自治権を侵害したのだ。係争委員会が、国と対等である地方自治体の立場を守るために設置された機関であるならば、国の違法性を厳しく指摘する勧告を出すべきだった。

 だが、係争委員会の富越和厚(とみこしかずひろ)委員長(元東京高裁長官)は「国交相の停止決定の内容が適法か違法かに触れるものではない」と語った。「私人なりすまし」の判断を避けた。

 だが、そもそも国交相に行審法にもとづく審査権限はない。昨年8月31日に承認撤回したのは知事ではなく副知事の名で行った。翁長雄志(たけし)知事の死去で知事代理となった富川盛武副知事は、承認撤回の権限を謝花喜一郎副知事に委任していた。この場合、行審法の審査をするのは上級庁の知事となるからだ(行審法第4条4号)。国交相ではない。沖縄防衛局が「私人」になりすましたのと同様、国交相は「審査庁」になりすましたことになる。係争委員会は、そうした法解釈をことごとく避けたのだ。

犯罪的な国交相

 国交相は行審法の仮処分規定だけをつまみ食いし、本審査にはまったく手をつけない。翁長知事が前任の仲井真弘多(ひろかず)知事の行った承認を取り消した時、国交相は「行審法ではなく、地方自治法の代執行を優先する」と公言していた。「簡易迅速かつ公正な審理」を趣旨とする行審法の審理は後回しにし、知事の公有水面埋立法(公水法)適用違反を所管大臣としてただすことが先だ、閣議決定だと言った。今回も同じ構えでいる。

 公水法の所管大臣というのであれば、公水法の承認要件を欠く沖縄防衛局の工事を是正させるべきではないか。

 昨年8月、沖縄県が埋め立て承認撤回に至った理由の一つに軟弱地盤の存在があった。国が隠していた地盤調査データが明らかにされ、埋立承認願書の記述とは大きく異なることが発覚した。そのままの設計では、安全な構造物にはならない。公水法の承認基準要件を欠くため、県は承認を撤回した。当然の処分だ。

 これが、国交相が行審法の審査を進めない理由の一つだ。軟弱地盤の存在を認めた以上、県の承認撤回を誤りだと言うのは容易ではない。安倍政権にとって、軟弱地盤問題は極めて深刻であることが想像される。沖縄防衛局は3年以上前から軟弱地盤の存在を知っていた。その後何度も地質調査を繰り返しているが、対策方法はまとまっていない。

見通せない対策工法

 安倍首相が軟弱地盤の存在を認めた1月30日の答弁は迷走していた。「一般的で施工実績が豊富な工法で地盤改良工事を行うことで、護岸や埋め立てなどの工事を所要の安定性を確保して行うことが可能であることが確認されたと聞いている」

 「安全性は確認された」と断言できないのだ。「一般的で、施工実績が豊富」とは、砂杭による地盤改良工法(サンドコンパクション工法)を想定したものだろうが、新たに明らかになった水深90bにも及ぶ砂杭の施工は、まったく実績がない。それもそのはず、施工できる作業船がそもそも存在しないのだ。しかも、対策が必要な軟弱地盤層はそれ以上に厚く、水深90bはさらに深くなる可能性がある。

 防衛局が作成した地層断面図を見よう。大浦湾側に設置される護岸の位置に沿って地盤を推定したものだ。最深部となるのが図のB27のポイント。水面下30bから90bまで、60bの超軟弱地盤層が読み取れる。だがB27ポイントから大浦湾側にかけて海底はさらに深くなっていく。辺野古断層、楚久(そく)断層に向かって下がっていくことになる。

 この地点の軟弱地盤上に予定されているC1護岸は高さ24b、厚さ22b、長さ52bのケーソン(コンクリート製箱型)護岸である。これが沈下・転倒しないようにするには、80b近い範囲を改良し、その上に設置地盤をつくる必要がある。それも軟弱層面が水深30bで水平とした場合だ。地盤が傾斜していれば改良必要範囲はさらに広がる。傾斜が急であれば、砂杭だけでは役に立たないことになる。

  * * * *

 今も沈下を続ける関西空港は護岸部に2万7千本の砂杭を施工したが、ほぼ水平な海底地形で砂杭の長さは20bに過ぎない。辺野古では護岸部で約4万本、埋め立て部を合わせて8万本近い砂杭が必要とされる。地盤改良工事だけでも最低5年はかかると政府は米軍に説明しているという(2/13沖縄タイムス)。しかもそれは希望的観測に過ぎない。工期も予算も全く先が見えていない。今ならまだ間に合う。直ちに工事を中止せよ。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS