2019年03月01日 1565号


【シネマ観客席/福島は語る/土井敏邦監督 2018年 170分/「終わったこと」にさせない/痛みを可視化する“言葉”】

 8年目の3・11がめぐってくる。その日を前後して、原発事故で人生を変えられてしまった人たちの証言ドキュメンタリー映画が全国で劇場公開される。土井敏邦監督の最新作『福島は語る』である。

 本紙今号が読者のみなさんに届く頃、2月24日、“天皇在位30年記念式典”が執り行われる。そこで“国民代表の辞”を述べる二人のうち一人が、内堀雅雄福島県知事(もう一人は川口順子元外相)。この人選に舞い上がった内堀は「常に被災者の身を案じ、被災地の復興を願う強いお気持ちに改めて感謝申し上げる」とコメントしたという(1/18福島民友)。

 そう、キイワードは「復興」だ。「復興」の名の下に、原発事故の被災者・避難者が抱える重い現実は覆い隠されている。政府も福島県も何ら「被災者の身を案じ」ることなく、住宅支援の打ち切りや避難指示解除、モニタリングポスト撤去、甲状腺検査の縮小など新たな被曝安全神話づくり、帰還強要の諸政策を推し進めている。

 『福島は語る』は、3年にわたる取材で集めた100人を超す証言の中から14人を選び、ひたすらその“語り”を映像にして綴ることで、忘れ去られようとしている“フクシマ”の思いを私たちにつきつけてくる。

 どんな言葉が語られるのだろうか。

 避難をめぐる家族間の軋轢(あつれき)、「逃げた」と冷たい視線にさらされる後ろめたさ、生きる支えを奪われた喪失感、育てた農作物が「福島産だから」と避けられる苦悩、他県産を求めてしまう自責の念、自死への誘惑、出身地を名乗れない子どもたちの葛藤、追いつめられ病む暮らし、「民を守らない国」への抵抗、「尊厳」をかちとる闘い、すべてを失った慟哭(どうこく)…。

 もともとは5時間30分の長さだったが、劇場用に2時間50分に短縮されている。メディア向け試写会で土井監督はこう話した。「14人を選ぶときに一番注意したのは、“問題”を語る言葉は全部捨てること。心に届く言葉で、“人間”を語る。人間が描かれている言葉を選び抜くことに神経を使った」

 上映期間は1〜2週間と短い。「人が集まってくださるか不安。しかし、3・11を逃すと“フクシマ”の映画はほとんど見てもらえない状況がある。とくに、来年は東京オリンピックということでマスコミも国民もみんな浮き足立っていて、もう福島のことなど“なかった”かのようになっている。そこが3・11当時から関わっていた人間として許せない」。土井監督は全国上映の成功へ力を貸してほしいと呼びかけている。

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◆上映情報

新宿K's cinema 3月2日(土)〜15日(金)
佐賀シアターシエマ 3月8日(金)〜14日(木)
フォーラム福島 3月8日(金)〜14日(木)
渋谷ユーロスペース 3月9日(土)〜
横浜シネマ・ジャック&ベティ 3月9日(土)〜22日(金)
名古屋シネマテーク 3月9日(土)〜15日(金)
京都シネマ 3月9日(土)〜15日(金)
大阪・第七藝術劇場 3月9日(土)〜15日(金)
福岡・KBCシネマ1・2 3月11日(月)、3月14日(木)
広島・横川シネマ 3月15日(金)〜21日(木)
札幌・シアターキノ 3月27日(水)

土井敏邦監督

 1953年佐賀県生まれ。85年以来、パレスチナ・イスラエルを取材。93年より映像ジャーナリストとしての活動も開始し、パレスチナやアジアに関するドキュメンタリーを制作。

 05年『ファルージャ2004年4月』、09年『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作、12年『飯舘村・故郷を追われる村人たち』、15年『”記憶”と生きる』、同『ガザに生きる』全5部作など。

 主な著書に『占領と民衆―パレスチナ』『沈黙を破る―元イスラエル軍将兵が語る“占領”―』『“記憶”と生きる―元「慰安婦」姜徳景の生涯』など。













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