2019年03月08日 1566号

【天皇に謝罪求めた韓国議長/「戦争犯罪の主犯の息子」は本当のこと/逆ギレ安倍は憎悪を煽る】

 「天皇の直接謝罪で“慰安婦”問題は解決できる」―。韓国の文喜相(ムン・ヒサン)国会議長の発言が波紋を広げている。日本国内は非難の声であふれ返り、徴用工判決以来の嫌韓ムードは高まる一方だ。しかし、植民地支配の被害者が和解の前提として真摯な謝罪を求めるのは当たり前の話である。加害者が逆ギレするほうがおかしいのだ。

どこが非礼なのか

 問題の発言は2月7日、米ブルームバーグ通信のインタビューのなかでとび出した。文議長は日本軍「慰安婦」問題の解決策について次のような「持論」を展開した。

 「一言でいいのだ。日本を代表する首相か、あるいは私としてはまもなく退位される天皇が望ましいと思う。その方は戦争犯罪の主犯の息子ではないか。そのような方が一度(被害者である)おばあさんの手を握り、本当に申し訳なかったと一言いえば、すっかり解消されるだろう」

 日本政府は発言の撤回と謝罪を再三要求したが、文議長は「謝罪する側が謝罪せず、私に謝罪しろとは何事か。盗っ人猛々しい」とはねつけた(2/18)。発言の真意については「韓日間の歴史問題に関する和解に向け、日本を代表する首相や国王(天皇)の誠意ある措置が必要だという次元からした話だった」と説明した。「謝罪の主体としては現職総理の安倍晋三首相が1位、その次が天皇になる」のだという。

 いかがであろう。安倍首相は「甚だしく不適切な内容」(2/12衆院予算委員会)と非難し、右派メディアも「常軌を逸した非礼発言」(2/15夕刊フジ)とかみついているが、被害者が誠意ある謝罪を加害者に求めるのはごく普通のこと。やや乱暴な表現はあるものの、日本の植民地支配に苦しめられた韓国の国会議長として当然の発言といえる。

 もちろん、天皇の「癒し効果」に期待を寄せる部分には賛同できない。「安倍首相はどうせ何もしない。ならば天皇で」ということかもしれないが、天皇の「お言葉」ごときで戦後補償問題が「解決」するはずがない。

 とはいえ、日本政府に「天皇の政治利用」を批判する資格はない。彼ら自身がグローバル派兵路線に対するアジア諸国の警戒心を解くための切り札として、天皇をさんざん利用してきたからだ(1992年の中国訪問、2016年のフィリピン訪問など)。

民衆法廷では有罪

 安倍一派がいきり立っている「戦争犯罪の主犯の息子」はどうか。「畏(おそ)れおおい」などといった時代錯誤的な反発は論外として、中には「事実の歪曲」と言い張る向きもある。「昭和天皇は極東軍事裁判で訴追されていない。よって戦犯扱いは間違いだ」と。

 たしかに、GHQ(連合国軍総司令部)=米国は昭和天皇の戦争責任を問わなかった。なぜか。占領を円滑に進めるために天皇の「権威」を利用する方針だったからである。この政治目的のために正義はないがしろにされた。

 だってそうでしょう。日米開戦時の総理大臣(東條英機)ら7名が「平和に対する罪」等で死刑判決を受けているのに、明治憲法上、立法・行政・司法の三権を掌握し、軍の統帥権も独占していた天皇に責任はないなんて、どう考えても筋が通らない。

 たとえ、法の裁きを逃れても、昭和天皇は侵略戦争・植民地支配の罪を免れることはできない。そして、その地位を受け継いだ現天皇は前任者の責任を継承する立場にある。文議長が指摘するように、「歴史の法廷においては戦争や人道に対する犯罪は時効がない」のである。

 ちなみに、「慰安婦」制度など日本軍による戦時性暴力を裁くことを目的に開催された民衆法廷(女性国際戦犯法廷)は、昭和天皇を「人道に対する罪」で有罪とした(2000年12月)。

 この民衆法廷を取り上げたNHKの番組に当時官房副長官だった安倍晋三らが圧力をかけ、番組内容を改変させた(「天皇有罪」部分の削除など)のは有名な話である。安倍自身、米国の思惑で戦犯を逃れた人物(岸信介元首相)の孫なので、「戦争犯罪」という言葉には神経をとがらせているのだろう。

ヘイトだけが頼り

 文議長は自身の発言が日本で叩かれていることについて、「(日本国内で)コーナーに追い詰められた安倍首相の戦略的な思考」によるものだと強調した。図星であろう。

 国会開会中に統計不正問題が政権を直撃したにもかかわらず、内閣支持率は大きく下がっていない。安倍政権のある幹部は「統計不正が響かないのは韓国のおかげだ」(2/23朝日)とあけすけに語っている。国外にわかりやすい敵を設定することで、批判の矛先をそちらにそらしているというわけだ。

 延命のために韓国ヘイトを煽る政府。3・1朝鮮独立運動100周年の関連行事すら「反日活動」よばわりし、韓国叩きに精を出す右派メディア。長きに渡る安倍政権がこのような恥ずべき事態を生み出した。一刻も早く終わらせねばならない。   (M)

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