2019年03月08日 1566号

【国の責任5度断罪/福島原発かながわ訴訟 勝利判決/法の庭 八分咲きなり 寒の梅/国・東電は判決に従え/「ふるさと喪失」「自己決定権侵害」認定】

 福島原発事故で神奈川県に避難した60世帯175人が国と東京電力に慰謝料など総額約54億円の支払いを求めた訴訟の判決が2月20日、横浜地裁であった。

 地裁前には、福島・群馬・埼玉・千葉・東京・京都・大阪などの避難者集団訴訟原告や支援者ら約300人が集まり、歌やスピーチを繰り広げながら午前10時の判決言い渡しを待つ。10時25分を過ぎ、原告らが裁判所から出てきたが、結果を知らせる垂れ幕は現れない。不安が募りかけたその時、弁護士ら7人が一斉に飛び出し掲げた幕に「勝訴」の文字が踊った。

 歓声が沸き起こる中、記者団に囲まれた村田弘(ひろむ)原告団長は「国の責任は明確に認められた。8年間は長くつらい期間だったが、黙っていればなかったことにされてしまうと避難者の気持ちが一つになった」と目頭を押さえた。支援者の激励に応え、開いた左手に右手の指3本を添えて「8」を示す。「法の庭 八分咲きなり 寒の梅」の垂れ幕にある“80%の勝利”の思いを伝えようとしたのだ。

 国の責任を認める地裁判決は、千葉を除き5度目。黒澤知弘弁護団事務局長は「国も東電と同様の損害賠償責任を負うとした。これで地裁レベルでは“国に責任あり”が定着した」と評価した。

 判決は、国も東電も事故1年半前の2009年9月時点で、貞観地震の分析から敷地高を超える津波の到来を予見できたと指摘し、防潮堤設置や浸水防止措置を採用せずとも、時間のかからない電源設備の移設さえ行っていれば原子炉の爆発と放射性物質の大量放出は回避できたと認定。規制権限を行使しなかった国を「国家賠償法1条1項(公務員の不法行為と賠償責任)の適用上違法。東電と同額の損害賠償責任を負う」と断罪した。

 被告・国は、地裁から高裁に移った各訴訟で、東電刑事裁判の推移も見据えながら、巻き返しを図っていた。「絶対安全はない」「(政府の地震調査研究推進本部の)長期評価に基いて対応しても避けられなかった」「対策を取る時間はなかった」とし、論点を「想定外で予見できなかった」から「分かっていても事故は回避できなかった」に変えてきた。原発事故全国弁護団連絡会の米倉勉代表世話人が「(避難者訴訟の判決は)1年近く間があり、その間国は責任について本気になって反論していた。それを食い止め、さらに発展させる判決だ」と言うように、全国の一審・控訴審の審理に影響を及ぼすことは間違いない。

 損害賠償は総額で約4億2千万円、請求額の1割以下に抑えられた。「求めていた強制避難区域の中での賠償金格差の是正は見られるが、旧避難区域など中間的な区域から外はきびしく、(原子力損害賠償紛争審査会の)中間指針に少し上積みした程度」と黒澤弁護士は報告する。

 一方、判決は慰謝料の対象に「ふるさと喪失」と「自己決定権侵害」を初めて位置づけ、「それまでの住居からの移住を余儀なくされ、財産権・生存権に加えて平穏生活権や居住・移転の自由など広範な権利が多種多様な規模で侵害された」と明記した。黒澤弁護士は「区域外避難者の慰謝料は、避難生活の長さではなく自己決定権に対する慰謝料という形をとっており、少額の反面、世帯人数の多いところはそれなりの額になった。乗り越えていく光は見えている。判決を機に賠償政策の見直しを図っていきたい」と述べた。

 記者会見では、原告が次々と思いを語った。山田俊子副団長は「国と東電の責任が明確にされてよかった。ふるさとを奪われ、生活を破壊されたことが分かってもらえる判決を望んでいた。判決の積み重ねで、やがては政策を変える力になっていけば」。岩渕馨さんは「多くの人に支えられて闘ってこられた。裁判所が国・東電の責任を認めても、彼らを許すことはできない。失ったものは言葉で言えない。避難者は賠償金を元手に生きていかねばならないのに、あまりにも低い。自己決定権を奪われて福島を出、自己決定権を奪われて帰還させられる。何とも理不尽ではないか」。

 今後に向けて、小畑まゆみさんは「要求が全く否定されたわけではないという意味でほっとした。国・東電は控訴するだろうから、闘いは今後も続くという構えでいる」。最後に村田団長が決意を述べた。「弁護団の厳しい分析を聞いて、八分咲きではなく六、七分かなと感じる。流れを後退させず、今後につながる判決ではあった。現実はもっと先に進んでいる。住宅提供の打ち切りなど、来年のオリンピック前には終わらせようという政策がそうだ。裁判だけでなく運動を進めていかねばならない」

 かながわ訴訟の原告は、弁護団・支援者と三位一体となって次につながる判決を勝ちとった。

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 原告らは午後4時、東京・内幸町の東電本店へ。「勝訴」の垂れ幕を高く掲げ、「判決を正面から受けとめ、不服を申し立てることはやめてほしい。被害者の救済へ方向を転換してほしい」と迫った。東電は補償相談室の3人が応対し、申し入れ書を受け取ったが、「判決を精査し検討する」としか答えなかった。

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