2019年03月15日 1567号

【レール検査データ改ざんでJR北海道に有罪判決/強権的企業体質を断罪/廃線阻止へ続く地域の闘い】

 2013年9月、JR函館本線大沼駅付近で貨物列車が脱線、その後、レール検査データに「改ざん」があったとされた「レール検査データ改ざん事件」の判決公判で2月6日、札幌簡裁はJR北海道を罰金100万円とする一方、保線業務の管理的労働者3名を無罪とした。JR北海道と労働者3名が鉄道事業法違反(虚偽報告)等の容疑で起訴されていたものである。

「悪質」とJRを断罪

 検察側は、可搬式軌道変位計測装置(トラックマスター)の検査データを検査表から台帳に転記する際、通り変位(注1)の数値が小さく書き換えられたこと、保線労働者が通り変位の数値に関心を示さず検査データの書き換えを黙認していたことを改ざんに当たるとした。これに対し労働者側は、車輪全体が2本のレールの間に落下していた状況から、現場で起きていたのは軌間変位(注2)であり、事故原因は軌間変位だと主張。通り変位は事故原因ではないのだから労働者がその数値の変化に無関心でも矛盾はないとして無罪を求めた。

 注目されるのは、20回を超えた公判で明らかにされた多くの保線労働者や専門家の証言だ。「トラックマスターには現場の曲線半径が400bと入力されていたが、実際は230b程度ではないか」「通り変位の数値が台帳転記の際に小さくなったのは改ざんではなく誤った数値の補正と認識していた」。裁判所はこれを保線労働者3名の無罪の根拠とした。

 こうした保線労働者の証言に信頼性はあるのか。国鉄分割民営化当時の不採用者で元国労稚内闘争団の田中博さん(保線担当)は「ある程度の期間、保線現場をきちんと経験した熟練労働者が現場に立ってカーブを見れば、その半径がどの程度かは感覚でわかる」と労働者を信頼する。労働者が検査データの数値を改ざんしたのではなく、JR北海道がカーブ半径を大きくごまかしていた。その数値を基に保線作業をすれば事故が起きかねないので、現場で労働者が数値を本来のカーブ半径に基づいたものに補正していた。そんな真相が浮上した。

安全犠牲の高速化

 判決は「従業員らを管理監督する立場にありながら、多数の従業員が複数回にわたって虚偽報告もしくは検査忌避に関与することに至らしめたもの」「犯状はかなり悪く、刑事責任は重い」とJR北海道の企業犯罪を断罪した。

 JR北海道によるカーブ半径ごまかしの事実を裁判所が直接事実認定したわけではない。だが当時のJR北海道にはそうするだけの十分な動機があった。相次ぐ事故を受けて社内に設置されたJR北海道再生推進会議が14年7月にこう指摘している。「高速道路網の道内整備計画に対抗するため、限られた財源を都市間高速事業に重点配分した」。安全を犠牲にして高速化を優先したとJR北海道みずから認めているのだ。

 函館本線建設当時の基準「普通鉄道構造規則」は、曲線半径400bでの制限速度は時速90〜110`b、250bでは70〜90`bと定める。230bカーブを400bと偽れば、1円も金をかけずに20`bも高速化できる。

路線問題でも強権体質

 JR北海道は、その後もこの事故を「反省」する振りをしながら、経営危機を演出。「自社単独では維持困難」な10路線13線区を切り捨てる意思を露わにした。路線維持を求める沿線住民・自治体の声に一切耳を傾けず、一方的に廃止の結論だけを押しつける。脱線事故を引き起こしたJR北海道の強権的企業体質は路線問題でも全く同じだ。

 こうしたJRの姿勢は地元住民・自治体の強い反発を呼び起こしている。JR北海道の「維持困難路線」の公表から2年以上経った今なお、地元側から廃線を申し出た石勝線夕張支線を除けば、地元自治体と廃線で合意できたのは札沼(さっしょう)線(北海道医療大学〜新十津川)だけだ。

 札沼線の次に廃線が狙われている日高本線(鵡川<むかわ>〜様似<さまに>)の地元では住民や自治体による粘り強い抵抗が続く。池田拓・浦河町長は「鉄道など公共交通は全国どこでも誰でも公平に受けられるユニバーサルサービスとして、政府が責任を持つ必要がある」とJR北海道の責任での全線復旧を訴える。2月26日同沿線7町で構成する日高町村会が「廃止同意」決定かという動きもあったが、阻止された。根室本線(富良野〜新得)の地元でも自治体と住民が一体となった路線維持の闘いが続く。

 列車運行、高速化最優先で安全も路線も切り捨て、労働者を強権的に締め付け支配するJR北海道の姿は、尼崎事故を起こしたJR西日本などJR全体に共通する。すべては国鉄分割民営化が生み出した問題だ。分割民営化の検証と見直しを行わない限り、問題の本当の解決はない。



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(注1)通り変位 列車が曲線を通過する際の遠心力によって2本のレールが揃って外側にずれること。



(注2)軌間変位 2本のレールの幅が広がること。枕木やレールを固定する犬釘などの不良が原因とされる。
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