2019年03月22日 1568号

【ベネズエラの「危機」はなぜ/経済制裁で対立あおった米政権/反米政権転覆へ軍事介入狙う】

 「独裁者マドゥロ大統領の圧政に苦しむ人々は食料や薬が手に入らず死の恐怖におびえている」―メディアは南米ベネズエラを「人道援助が必要な危機的状況にある」と伝えている。

 混乱を一気に泥沼化させたのが、マドゥロ大統領に対抗し国会議長グアイドが「暫定大統領」就任を宣言したことだ。米国政府は直ちに「グアイド大統領」を承認、マドゥロ退陣を求めて軍事介入さえ辞さない構えを見せている。

反米・反新自由主義

 なぜこんな事態になったのか。振り返ってみよう。

 ベネズエラは、石油埋蔵量世界一(約3千億バレル=2017年)にもかかわらず、長年一部の富裕層がその恩恵をひとりじめにし、大地主の支配と相まって、大多数の民衆は貧困を強いられてきた。

 1999年、富の公平な分配を掲げたチャベスが貧困層の支持を得、大統領となる。 欧米国際石油資本に統制されていた石油資源の収益を貧困層の生活改善に回し、無料医療制度や農地改革などの改革を進めた。同政権に権益を奪われた富裕層と米国はこれを嫌悪。2002年、CIA(米中央情報局)の支援で軍がクーデターを起こしたが、民衆の大規模なデモが沸き起こり、失敗に終わった。チャベスは中南米の反米・反新自由主義の旗手となった。


突然の「大統領」宣言

 13年チャベスの病死後、側近であったマドゥロが大統領に選出され路線を継承する。時期を同じくして国際石油価格が急落。石油輸出に頼るベネズエラ経済に大きな打撃を与えた。

 しかし、経済を決定的に悪化させたのは米国やEU諸国による経済制裁だ。15年オバマ政権は人権抑圧を口実に、ベネズエラ政府要人の資産凍結を行った。制裁はその後、トランプ就任で加速する。石油輸入制限をはじめ、送金停止、口座封鎖などの金融制裁と輸出妨害で食料品・日用品から医薬品まで輸入が止まる。経済制裁は貧困層の生活を直撃した。不満を持つ民衆の一部を富裕層と既得権層が取り込み、野党、右翼勢力が力をつけた。

 ただ「不満や物不足はあるが、状況は人道危機にあたらない」(17年11月、国連人権理事会のベネズエラ調査担当独立専門家サヤス弁護士)という国内状況だった。

 今年、マドゥロが大統領2期目の就任を宣言した(1/10)ことに対し1月23日、米ペンス副大統領の後押しをうけたグアイドが反政府集会の最中に突然「大統領就任」を宣言した。なんの法的手続きも踏んでいない。直後の28日、トランプはベネズエラ国営石油会社に制裁を発動した。70億ドル(約7700億円)の資産が凍結され、年110億ドル(約1兆2千億円)の輸出収入が失われた。これに既得権層の妨害活動が加わり、生活危機の深刻な事態となっている。

 主権侵害であるグアイド承認と命を奪う経済制裁は、マドゥロを引きずり下ろすために一体で仕組まれたものだ。民衆生活や民主主義とはまったく無縁だ。

資源開発狙う石油資本

 米国―グローバル資本が執ようにベネズエラ政府転覆を図るのは、莫大な石油資源を奪う「自由」を手に入れるためだ。隣国ガイアナにまたがる地域には、良質の石油埋蔵が確認されている。ボルトン安全保障担当大統領補佐官は「今、主要な企業と話し合っている。もしベネズエラで米石油企業が投資し生産すれば、米経済を大いに改善する」とその思惑をあけすけに語る。

 反米反グローバリズム政権の排除には手段を選ばない。トランプは「あらゆる選択肢がある」と軍事介入を繰り返しほのめかし、グアイドは「必要とあらば米の武力行使がありうる保証を」(2/25ワシントンポスト)と応じる。米国が実行しようとする「人道援助」には生活物資でけでなく、軍、CIAが関わり武器が含まれるとの報道もあり、挑発―武力衝突の危険性をつくり出している。すでにカリブ海域に米空母2隻が展開し、米南方軍司令官は周辺諸国軍と連携を強めているのだ。

 「独裁vs民主化」「人道危機」と大宣伝し、戦争を正当化する―イラクで、リビアで、シリアで実行された、使い古された侵略の手口だ。

「戦争するな」と統一行動

 日本政府の対応はどうか。河野外相は2月19日、グアイド支持を表明した。安倍政権は地球の裏側まで派兵が可能とした戦争法をつくった。いつ安倍が人道援助のために自衛隊派兵を≠ニ言い出しても不思議ではない。

 だが世界の民衆は「介入するな」と行動を開始している。2月23日の「NO WAR ON ベネズエラ」国際統一行動は世界150以上の都市に広がった。3月16日、30日にも「ベネズエラに手を出すな」ワシントン大デモをはじめ国際的な抗議行動が呼びかけられている。

 ベネズエラ、世界の民衆と連帯し、日本からも「軍事介入を許すな、経済制裁をやめろ」の声を上げよう。

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