2019年03月22日 1568号

【ミリタリーウオッチング 安倍の自衛隊募集「6割拒否」発言/事実は9割協力 それこそ大問題】

「協力」義務はない

 2月10日の自民党大会で、安倍首相は「自衛隊の憲法明記」に言及し、「新規隊員募集に対して都道府県(安倍の間違いで「市町村」をさす)の6割以上が協力を拒否している実態がある」と述べた。1月30日衆院本会議でも同じ答弁を行い、「自衛隊明記」を「正当」づけようとした。

 防衛省は、主に18歳と22歳を対象に住所、氏名、生年月日、性別の個人情報を市町村から入手し、ダイレクトメール送付や戸別訪問で勧誘を行っている。リストアップの際、自治体に対して対象者名簿を「紙媒体または電子媒体で提出」するよう求めている。2017年度は、全国1741市区町村のうち、この「方法」で名簿を提出したのが632自治体(約36%)。931自治体(約53%)は「住民基本台帳の閲覧や書き写し」という「協力」を行っている。安倍は「6割拒否」と言うが、実際は全体の9割もの自治体が自衛隊募集に「協力」していることになる。あと約10%は、過疎地や離島で対象者が少ないため、防衛省の側が名簿提出を求めていないケースがほとんどだ。

 政府は、この情報提供について、自衛隊法97条「市町村が募集に関する事務の一部を行う」、同施行令120条「(防衛省は)資料の提出を求めることができる」が「根拠」とするが、自治体に資料提出に応じる義務は全くない。むしろ個人情報保護法や各自治体の個人情報保護条例に抵触する。だが、名簿提出への「協力」を拒否しているのは5自治体のみというのが、残念ながら今日の実情だ。

「協力拒否」の歴史

 自治体による自衛隊員募集の協力拒否。その歴史は、1973年、「自衛隊は違憲」と断じた北海道長沼ナイキ基地訴訟「福島判決」(札幌地裁)をきっかけに多くの革新自治体が自衛官募集業務を停止したことに始まる。裁判自体は控訴審で逆転敗訴、憲法判断を回避した上告棄却で終わったが、自治体の募集協力拒否の流れを生み出したのは市民による「憲法を武器とする闘い」であった。

 この闘いは、生活レベルでの広がりも持った豊かな内容を持っていた。「自衛隊員募集の策動に反対し、ZA(ゼロ・アーミー)運動を発展させよう」と呼びかけ自治体の募集活動協力に抗議してやめさせたり、自衛隊の宣伝を圧倒する多様な平和の宣伝で自衛隊入隊者をゼロにしようと立て看板、ポスター、ワッペンを作ったり―などなど。

 安倍発言に対する一部野党や朝日、毎日新聞などの主張は「9割もの自治体が国の要請に応えているのに、安倍はそれを認めない」というものだ。憲法違反である自衛隊の募集協力強要の根本的不当性に触れることなく、愚痴っぽい「評論」に終始している。

背景に自衛官応募減少

 自衛隊員募集問題の背景には、ここ数年、応募者が減少し続けている事実がある。いわゆる採用計画数に対する実際の採用者の割合(充足率)は2017年で79・9%まで落ちている。イラクや南スーダンなどの海外派兵。それにともなう多数の自殺者、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の発生。戦争する軍隊に向け激化する演習での事故続発。隊内で繰り返されるいじめも報道されている。

 募集対象の若者もその家族も、そうした現在の自衛隊のありようをいやが上にも知らされる。このことが応募の減少に影響していないと誰が言えるだろう。

 問われるべきは、自衛隊そのものの存在である。

藤田なぎ
平和と生活をむすぶ会 

 
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