2019年03月22日 1568号

【非国民がやってきた!(302)土人の時代(53)】

 遺骨返還問題の新しい本ができあがりました。松島泰勝・木村朗編著『大学による盗骨――研究利用され続ける琉球人・アイヌ遺骨』です。

 この本は3つの流れが合流して、生み出されました。第1は、言うまでもなくアイヌ民族・琉球民族の遺骨返還を求める運動です。特に昨年12月に琉球民族遺骨返還請求訴訟が京都地裁に提訴されました。裁判闘争と運動のガイドブックでもあります。

 第2は、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会の活動です。木村朗(鹿児島大学教授)の提唱により研究会が発足しました。共同代表は木村朗及び高良鉄美(琉球大学教授)、共同副代表は前田朗及び松島泰勝(龍谷大学教授)です。沖縄、東京、京都などでこれまでに17回の公開シンポジウムを開きました。遺骨返還問題も繰り返し取り上げてきました。

 第3は、木村朗・前田朗の共同の取り組みです。これまでに『21世紀のグローバル・ファシズム』(耕文社)、『闘う平和学』『ヘイト・クライムと植民地主義』(ともに三一書房)をはじめ、何冊もの共編著を送り出してきました。『闘う平和学』は、加藤朗(桜美林大学教授)との<3人の朗>による討論の記録です。

 さて、本書序言には鳩山友紀夫(東アジア共同体研究所理事長)による「東アジアにおける琉球人・アイヌ遺骨問題」が収められています。

 民主党政権の首相として、沖縄の米軍基地負担軽減のために努力したものの、逆に首相の座を追われることになった経緯には言及していませんが、先住民族の権利と尊厳に関する所見が述べられています。東京生まれながら北海道選出議員となった事情、しかも地盤の日高や胆振は多くのアイヌ民族が暮らす土地であることから、アイヌ民族遺骨問題についてはよく知っていたが、「琉球人の遺骨も同様の手口で京都大学などで研究対象とされていたことについては、理解が及んでいませんでした」と言います。

 本書は全4部の構成で、16本の論文と10本のコラムが収録されています。研究者、運動家、ジャーナリスト、返還訴訟原告、弁護士による16本の論文は次のようなものです。

 第1部「琉球の遺骨返還問題」には「琉球人遺骨問題と自己決定権」(宮城隆尋)、「形質人類学と植民地主義との歴史的関係と今日的課題」(松島泰勝)、「研究のおぞましさについて」(冨山一郎)が並びます。

 第2部「アイヌの遺骨返還問題」には「アイヌ遺骨返還問題とDNA研究」(植木哲也)、「問われる日本人の歴史認識と先住民族アイヌの権利回復」(出原昌志)、「ドイツから『移管』されたあるアイヌの遺骨と脱植民地化」(小田博志)が収められています。

 第3部「植民地主義と学問の暴力」には「連載『帝国の骨』の取材から」(岡本晃明)、「植民地主義と学知の調査暴力」(佐藤幸男)、「学問という名の暴力」(前田朗)、「日本の植民地主義とアイヌ・琉球(沖縄)・奄美の遺骨問題」(木村朗)、「京都大学に対する奄美人遺骨返還運動」(大津幸夫)、「なお遠い『知』の植民地清算」(川瀬俊治)が続きます。

 第4部「京都大学を訴える」には「ウヤファーフジ(先祖)の遺骨を返せ」(照屋寛徳)、「問題解決のための今後の展望」(松島泰勝)、「ご先祖のマブイに平安を 子孫としての切なる願い」(亀谷正子)、「百按司墓の盗掘と植民地主義」(丹羽雅雄)が収められています。

 10本のコラムは多彩です。琉球人の霊魂観、源氏系統と百按司系統、アイヌ新法、アイヌ強制移住、コタンの会の運動、国連先住民族権利宣言など、多角的に問題のありかを指し示しています。

 本書全体を通じて、日本の植民地主義の歴史と現在が俎上に載せられています。同時に、帝国を支えた「学問の植民地主義」が戦後の現在に至るまで検証されてこなかった事実が浮き彫りにされます。

<参考文献>
松島泰勝・木村朗編著『大学による盗骨』(耕文社、2019年) 
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS