2019年03月22日 1568号

【コラム見・聞・感/「風評」にすべてを押し付ける福島県政】

 福島県内では、今なお地元メディアを中心に、福島県産農産物への風評被害を払拭しなければならない、という報道が行われている。正確に定義もされないまま独り歩きし、生産者と消費者、また県民同士の分断の原因となってきた「風評」問題。そろそろ真剣に検証すべき時期に来ている。

 2018年3月、農林水産省が公表した「平成29年度福島県産農産物等流通実態調査」はこの問題にある程度答えている。福島県産農産物のイメージに関する消費者への質問では「特にイメージはない」が3〜4割を占める一方「安全性に不安がある」は2割弱。流通業者への調査では、福島産を取り扱わない理由として「他産地のもので間に合っている」「他産地を撤去してまで福島産に変える理由がない」が大勢を占めた。

 産地表示の不要な外食・給食など業務用では、原発事故以降も福島産販売量は減っていない。福島全農の扱う米の業務用比率は現在80%で事故前の15ポイント増(3/7朝日)だ。

 産地表示の不要なところ、食材を自分で選択できない人のところに福島産が回っている≠ニいう事故直後の町の噂≠裏付けた結果だ。2月の消費者庁調査でも、放射性物質を理由に福島産購入をためらう人は12・5%。わざわざ他産地のものを撤去して、売れなくなるリスクのある福島産に変える積極的な動機がないというのが一般の流通・販売業者の本音なのだ。

 一方、「風評被害」に責任を押し付けるだけで、福島県が農業振興に努力不足であることを示すデータもある。やや古いが原発事故前、05年の農業センサス(農水省)によれば、福島県には約8万戸の販売農家があり、その農業生産額は2500億円。お隣の山形県が5万戸の農家で2千億円の生産をあげているのと比べると、農家1戸当たりの生産額は明らかに少ない。

 福島では農産物のブランド化が遅れ、他地域に比べて農業構造も小規模零細経営が多く不安定という事実を、データは示している。原発事故前から福島県は農家の創意工夫に任せきりで、農業経営の改善を援助し安定化させる努力を怠ってきたのだ。

 こうした事実を隠したまま、福島県や県内メディアが「福島産を取り扱わない流通・販売業者、買わない消費者が悪い」と風評被害なくせ<Lャンペーンを繰り返すのは根本的に間違っている。県が、健康被害や低線量被ばくなどの科学的真実、そして現実を直視せず、いつまでも他の誰かのせいにしている限り、福島県民のための真の復興はあり得ない。

       (水樹平和)
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