2019年03月22日 1568号

【ブラック化する教育2014−2018/大内裕和著 青土社 本体1800円+税/安倍教育破壊への根源的批判】

 本書は、「ブラックバイト」の名付け親で奨学金問題対策全国会議共同代表でもある大内裕和と、安倍内閣の「教育再生」に警鐘を鳴らすジャーナリスト、学者らとの対談集だ。

 著者らは今日の新自由主義と国家主義による教育支配の根源を1990年代にさかのぼって明らかにする。95年、日経連は『新時代の「日本的経営」』で労働力の3分類を打ち出した。「長期蓄積能力活用型」「専門能力活用型」「雇用柔軟型」に分け、「期限の定めのない」雇用は「長期蓄積能力型」だけで、他を「有期雇用」=不安定雇用へとたたき落とす宣言だった。

 この労働力政策と、「個性重視」「ゆとり教育」という90年代の教育改革は密接に結びついていた。「ゆとり教育」の内実は「公教育の縮小」であり、出身階層による教育格差を拡大させ、「雇用柔軟型」の不安定雇用に向かう「自由」を拡大させたに過ぎない。

 かつて終身雇用が当たり前だった時代、学歴主義、競争主義が批判されたが、「努力すれば何とかなる」との出口、つまり正規雇用が一定程度は用意されていた。しかし、新自由主義による雇用破壊は、その出口をふさいでしまった。学力や学習意欲の低下などの根本原因は労働問題だった。

 第2次安倍政権以降、「再生」の名の公教育破壊は一層進み、現場の「ブラック化」も顕著だ。教育予算が減らされ、社会環境の悪化によって生み出されている問題が教育問題にすり替えられ、学校や教員の「責任」に押しつける倒錯した状況が続いている。予算も人員増も抜きの「改革」は学校現場をいっそう多忙化させ、教職員は疲弊して「学校現場多忙化循環」の「悪夢のサイクル」だという。

 本書は、独走する安倍の姿勢を、現在に対する不満や鬱憤(うっぷん)、政治に対する無力感を強大な権力で克服する道を示そうとし、政治自身が政治の機能を徹底的に崩壊させる「破壊的」な保守と論じる。歴史修正主義を基調とし、「嫌韓」「嫌中」であるばかりでなく、第2次世界大戦後の国際秩序にすら挑戦しているのだ。

 こうした「破壊的」な保守のイデオロギーを道徳の教科化や教科書検定の強化など国家による教育統制を通じて持ち込んでいる。その目的は、自らの棄民政策が生み出した社会への不安や不満を、「屈折した愛国心」でごまかし、かすめとろうとするところにある。

 安倍が進める「教育改革」では、教育の政治利用がむき出しとなっている。すべての責任を教育になすりつけることで他の問題を隠蔽してしまう「教育のスケープゴート」化がセットで進行している。

 本書では、「受益者負担の論理」の克服や「教育の軍事化」をテーマとした対談もおさめられている。安倍の「教育再生」を新自由主義政策の下に位置づけ、批判する1冊だ。 (N)
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