2019年03月29日 1569号

【消費税増税で幼保「無償化」?!/待機児童を置き去りにする安倍政権/公立保育所つぶし安上がり狙う】

 子ども・子育て支援法の一部改定案が3月12日、衆院本会議で審議入りした。消費税増税分を財源に「10月から幼児教育・保育を無償化。3〜5歳児は全世帯対象」を謳(うた)う。あたかも「消費税で幼稚園、保育所がタダになる」かのような言い方だが、だまされてはならない。安倍政権の狙いを暴く。

偽りの「無償化」

 改定案は、「幼稚園・保育所・認定こども園等に通う3歳から5歳児の利用料を10月から無償化(一部は上限付き)、0歳から2歳児について住民税非課税世帯を無償化する」としている。安倍晋三首相はいつものように「次元の異なる政策」とウソをつき、「子育てや教育にかかる負担を大幅に軽減」と大口をたたく。宮腰光寛少子化担当相は、「認可保育所に通う3〜5歳児の1人あたりの公費負担額は年66万円程度」で総額約7800億円とする試算を示し、「低所得者に手厚い公費負担になっている」と強調した。

 ところが、所得階層ごとの「無償化」にかかる費用内訳をみると、宮腰の言い分とは異なる実態が見えてくる。認可保育所の無償化費用4650億円は、年収640万円を超える世帯に50%、年収260万円以下の世帯には1%があてられるに過ぎないからだ。「低所得者に手厚い」ものではない。

 もとより無償化は利用者の所得に関係なく、利用する内容のすべてに及ぶものでなければならない。ところが、改定案は、要望が多い給食費を「無償化」の対象外とするだけでなく新たに食材費の自己負担を発生させ、0歳から2歳児に所得制限をかけるなど「無償化」の理念からほど遠いものになっている。 

待機児童解消と同時に

 安倍政権が「一億総活躍社会」を打ち出した3年前、その虚構を暴く「保育園落ちた。日本死ね」のツイートが反響を呼んだ。それまで隠れていた待機児童問題が大きな政治課題としてクローズアップされた。求められていたのは、認可保育所の増設と保育士待遇改善を軸とする保育体制の強化であった。

 待機児童問題の解決を放置し無償化するとどうなるか、実例がある。

 12年から「無償保育」を導入している韓国では廃止の声が出ているという。韓国の研究者は、「無償化の開始は国公立の保育園や幼稚園をもっと確保し、質を向上させた後にすればよかった」と報告している(朝日新聞2月15日)。韓国の経験は、待機児童問題の解決と同時に無償化を実施すべきことを示している。

 昨年、待機児童約2万人の他に、希望する保育所に入れないなどの隠れ待機児童約7万人が発生した。問題はいっこうに解決していない。そこに「無償化」による保育ニーズ増が加わると、待機児童問題はさらに深刻化しかねない。無償化を実効あるものにするには、待機児童問題の解決が不可欠なのである。



全額市町村負担

 安倍政権は待機児童問題という喫緊の課題を置き去りにして、「無償化」だけをなぜ急ぐのか。彼らの「無償化」には、「安上がり保育」の狙いがあるからだ。

 「無償化」のための費用は国が全額負担するわけではない。私立の場合、国は2分の1、都道府県4分の1、市町村4分の1。これに対し、公立の場合では全額市町村の負担となる。公立を抱える市町村は明らかに負担増となる。特別区長会は、特別区の負担増を316億円と見込んでおり、消費税増税の増収分などを差し引いても「240億円が新たな持ち出し」との試算を出している。

 負担増を強いられる市町村は、公立保育所等の民営化あるいは廃止への衝動力をさらに高めていく。04年に公立保育所の運営費の国家負担金が一般財源化され、補助金がなくなった。06年には施設整備補助金を公立施設に適用できなくなった。そのため、市町村は公立保育所つぶしを強行してきた。「無償化」はこうした動きに追い打ちをかけ、公立保育所つぶしを加速する。

 安倍政権は待機児童問題の目玉として企業主導型保育所設置に力を入れてきた。2000年、企業が保育所経営に参入するのを認めた。つまり「無償化」で狡猾に国民の歓心を買いながら公的保育制度をつぶして「保育の完全市場化」を目論んでいるのだ。

 ところが、企業主導型保育所の定員充足率は昨年3月時点で60%ほどしかなく、約40%も空きがあった。突然の閉鎖も起こっている。保育士設置基準の緩さに起因する質の悪い保育が利用者に嫌われているからだ。「保育の完全市場化」など誰も望んでいないことの証(あかし)である。




軍事費削減で財源確保

 安倍政権の「無償化」が「安上がり保育」を狙ったものである証左は、給食費を無償化対象外としたことにも表れている。保育所保育指針は、「食育は、健康な生活の基本としての『食を営む力』の育成に向け、その基礎を培うことを目標」と保育に食育が必須であると述べている。食育を軽視した保育は成り立たないのであり、給食費も無償化の対象とすべきである。

 小中学校の給食費無償化は4451億円で可能とされる。高等教育を含む「無償化」でも予算は1兆5364億円としている。一方で、F35戦闘機105機の購入費用1兆円超、維持経費4兆円超やイージス・アショア2基と関連装置約2350億円など武器の爆買いが予定されている。それらの一部を削減するだけで予算捻出ができる。消費税増税をあてにする必要はないのだ。

 さらに、認可保育所などの増設と保育士の待遇改善、市町村の負担軽減、さらには給食費などを含む文字通りの無償化も軍事費を削れば容易に実現できる。人殺しに税金を使うな。人びとの生活に使え。国の隅々から安倍政権につきつけよう。
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