2019年03月29日 1569号

【大阪市消滅の「大阪都構想」/強権「維新政治」終わらせよう】

 松井一郎大阪府知事(大阪維新の会代表)と吉村洋文大阪市長(同政調会長)は任期途中で辞職。吉村は知事選に、松井は市長選に職を入れ替え再出馬する。その理由を二人は「大阪都構想実現のため」と述べた。

 このクロス選は、マスコミにも「党利党略」と批判されるほど異常な手段だ。そうまでして彼らが実現したい「都構想」とは何か。その正体を明らかにする。

民意無視で「都構想」・カジノ

 「都構想」は大阪市を廃止し、4つの特別区に分割するもの。特別区には「都市計画」(街づくり)「消防・救急」「上下水道事業」などを決める権限はない。これらは、府下42市町と4特別区を管轄することになる大阪府知事・府議会が決する。要するに、大阪市が消滅するということだ。

 だが「維新」はこうした「都構想」の実像をまともに説明してこなかった。2015年に行われた住民投票に関する調査研究では、「都構想」実現後も大阪市や区に権限が残ると考えていた人が大半で、大阪市が廃止されると理解していた人は8・7%に過ぎなかった(『世界』4月号)。「都構想」は否決されたが、多くの市民はその真実を充分知らされないまま投票させられていたのだ。

 民意を軽んじる「維新」の専横ぶりは、カジノ推進でも見て取れる。世論調査では、カジノ導入に反対60%・賛成31%(朝日)、反対55%・賛成32%(読売)と圧倒的多数が反対だ。だが「維新」は市民の意思とは無関係に、既定路線としてカジノ誘致を強行しようとしている。

 現状でもこのありさまだ。「都構想」が現実となれば、ますます市民の意思とは程遠い政策を強行するに違いない。

 特別区には議会が設置されるが、1区毎に選出される議員は少数となり、性別比などの均衡は計りにくくなる。もとより、大阪市消滅により住民に身近な議会が失う権限は多く、自治は形骸化する。

財源は大規模開発に

 自治体組織の改変は、税金の使い方を変えることにつながる。消滅する大阪市の予算は大阪府が吸い上げ、調整財源を特別区に交付する仕組みとなる。つまり大阪府が執行できる予算額が大幅に増えることになる。

 「都構想」の核心は、ここにある。大阪府が吸い上げた大阪市の財源は、万博・カジノのような大規模開発に投入するつもりなのだ。

 しかし、「維新」の進める大規模開発はことごとく失敗することが目に見えている。

 例えば大阪万博。その経費は国、大阪府・市、地元財界が3分の1ずつ負担することになっている。だが膨大な金額に関経連は経団連に費用負担を泣きつき、松井はカジノ事業者に200億円の拠出を求める。始まる前から資金ショート。そのツケを払うのは大阪市民・府民だ(表1)。

 民営化された大阪市の地下鉄の株式も、将来大阪府によって売却され投資の原資に回されるのがおちだ。利益を得るのは東京や海外のグローバル資本だ。大阪市民・府民の生活に回ることはない。


「財政効果1兆円」のウソ

 「都構想」のうたい文句は「二重行政の解消」。それにより、10年で1兆1千億円の支出節約につながると維新は宣伝する。だがこれまで、当初「年間4000億円」と言っていた節減額を、900億円、155億円とどんどん下方修正してきた。「二重行政解消」と関係のない削減額まで加算していると批判されるたびに修正したのだ。今では、せいぜい年1億円〜数億円程度と言われている。

 だから今回「10年で1兆1千億円」という額は全く信用できない。維新が根拠とするのは、大阪市が1千万円で嘉悦大学に委託した報告書だ。嘉悦大には「都構想」の強力な推進者である高橋洋一教授が在籍する。同報告書には多くの疑念・批判が表明されている(https://satoshi-fujii.com/factcheck_20180902/)。

 端的な例が節減効果の計算だ。報告書は「都構想」後の必要経費を特別区の人口×区民1人当たりの特別区の支出額≠ナ計算している。1人当たりの支出額は机上計算で20万円と設定した。だが特別区の仕事は東京23区とほとんど同じなのだから、23区の区民一人当たり支出額平均(38万円)を使うのが妥当だ。この額を使えば、節減ではなく増加となる(表2)。



 報告書は「都構想」に不利な事実を無視する。「市民一人当たり20万円」の支出額には市の借金返済や生活保護費の合計年8000億円超を含めていない。2つの費用は、大阪市が消滅しても無くならないので、府の負担増となる。

 また「都構想」で必要となる庁舎整備やシステム改修などの初期費用と運用費用を度外視している。これらの経費は10年で7000億円の純増。その上「都構想」により大阪市から大阪府が引きとる業務で、府の支出増は年2100億円、10年で2兆円超となる。報告書は特別区での支出減のみ強調し、大阪府側の支出増を隠している。「10年で1兆1千億円の節減」は、かくもでたらめなものなのだ。

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 「都構想」の本質は大阪市消滅、市民自治の否定である。維新の大規模開発行政を放置しては、財政破綻を招くのは明白だ。首長クロス選・議員選で「都構想」と合わせて、維新政治にとどめを刺そう。
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