2019年03月29日 1569号

【国会報道がひどすぎる/安倍政権の醜態は「なかったこと」に/皆様ならぬ、アベさまのNHK】

 “アベちゃんねる”化が進むNHK。安倍晋三首相が国会でデタラメ答弁を行っても「なかったこと」にしてしまうなど、ニュース番組の惨状は目を覆うばかりだ。そのうえ、良質のドキュメンタリー番組を制作してきた部署を事実上解体する計画まで進んでいる。NHK上層部は「安倍忠誠がまだ足りない」と考えているらしい。

「法の支配」問答を無視

 3月6日の参院予算委員会。安倍首相がまた無知をさらけだした。小西洋之議員(立憲民主党会派)に「総理はよく『法の支配』とおっしゃいますが、『法の支配』の反対の意味の言葉は何ですか」と聞かれると、しばしフリーズ。作り笑いでごまかしながら、次のように述べた。

 「あの、いわば、私が申し上げている『法の支配』というのは、まさにこの、反対語というよりも、えー、この海、繁栄の海、アジア太平洋の海を繁栄の海としていく、インド太平洋を繁栄の海としていく、地域としていく上においては、力による現状変更ということは認めないということでございまして(以下略)」

 まるで質問の答えになっていない。正解を述べる。「法の支配」の対義語は「人の支配」である。こんな憲法学の基本を聞かれ、なぜしどろもどろになるのか理解に苦しむ(ちなみに安倍首相は成蹊大学法学部卒)。

 「法の支配の対義語の『人の支配』の言葉も意味も知らない暴君が、憲法破壊や民主制の破壊をくり返している。この戦慄の事実を国民の皆さんに伝えたかった」。小西議員は質問の意図を自身のツイッターでこう明かした。

 残念ながら、その狙いは外れたようだ。メディアの多くは「法の支配」問答を詳しく報じなかった。特にNHKは予算委員会を中継していたにもかかわらず、ニュース番組では一連のやりとりをまったく取り上げなかった。

 このように、NHKの国会報道は「安倍政権に都合が悪い場面は映さない」ことが基本になっている。たとえば3月5日の参院予算委員会では、沖縄県民投票の結果にかかわらず土砂を投入することを安倍首相が了承していたことが岩屋毅防衛相の答弁で明らかになったが、NHKニュースはこのくだりをカットして放送した。また、安倍首相や閣僚たちのごまかし・居直り・逆ギレ答弁はひどいものだが、視聴者にはそれが伝わらない。ニュース番組では質問にちゃんと答えているように編集されているからだ。

印象操作で野党攻撃

 産経新聞が得意とする野党攻撃も、NHKのほうが巧妙かつ悪質だ。例として、3月1日放送の『ニュースウォッチ9』をみてみよう。

 この日、根本匠・厚生労働相の不信任決議案が野党から提出され、小川淳也議員(立憲民主党会派)が1時間48分に及ぶ趣旨弁明を衆院本会議で行った。だが、統計不正問題の責任を厳しく追及した演説の中身を番組は無視した。小川議員自身の言葉は一言も紹介しなかったのである。

 その一方で、小川議員が演説途中で水を飲む場面を3回も映した。「何度も水を飲む姿に議長は」とのナレーションを入れ、議長に「注意」されたことを強調。最後は、反対討論に立った自民党議員の「国民の誰一人として無駄な時間の浪費を望んでいない。どうして気付かないのか」という言葉でまとめた。

 悪意に満ちた編集というほかない。統計不正問題で不誠実な対応をくり返しているのは政府のほうなのに、まるで野党に非があるように描いている。こうした「だから野党はダメなんだ」式の印象操作は安倍内閣の支持率を下支えする役割をはたしている。NHKの罪は重い。

組織再編は改憲シフト

 さて、NHKの番組制作は報道局と制作局で行われている。現在の報道局長は小池英夫。政治部長の経験者で、安倍官邸に近いと言われる人物だ。森友事件に関する報道では現場がつかんできたスクープを何度も握りつぶそうとした(相澤冬樹著『安倍官邸VS.NHK』)。

 一方の制作局でも政権すり寄りの動きがある。現在8つある部署の再編計画だ。具体的には、ETV特集などを手掛ける文化・福祉番組部を複数ユニットに分割するという。事実上の解体である。

 ETV特集と言えば、福島原発事故による放射能汚染の実態や日本の戦争責任などをテーマに、すぐれた調査報道を行ってきた。安倍首相にとっては宿敵といえる番組だ。日本軍「慰安婦」問題を取り上げた『ETV2001 問われる戦時性暴力』(01年1月30日放送)に対し、当時官房副長官だった安倍晋三は放送前に圧力をかけ、番組内容を改変させた。

 NHK上層部は今回の組織再編によって、安倍首相との間に残った“最後のしこり”を取り除こうとしているという(週刊ポスト3月1日号)。新体制のスタートは予定では6月。夏の参院選、そして改憲策動の本格化を見据え、安倍政権への「広報支援」を強化しようとしていることは明らかだ。公共放送を「アベさまのNHK」にさせてはならない。       (M)



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