2019年03月29日 1569号

【どくしょ室/横田空域/吉田敏浩著 角川新書 本体840円+税/首都の空おおう軍事優先密約】

 首都東京上空の制空権を米軍が持っていることを知っているだろうか。本書は、米軍横田基地が管制権を持つ「横田空域」の問題に迫ったものである。

 「横田空域」は、東京、神奈川、埼玉、群馬のほぼ全域を含む1都9県に及ぶ広大な空域である。民間の定期航空路は「横田空域」を迂回(うかい)せざるを得ない。羽田空港の都心上空を通過する新たな進入経路が発表されたが、これも、米軍が時間を制限して特別に管制権を日本に与えたことで実現したものだ。

 「横田空域」の法的根拠は極めて怪しい。戦後、占領下での管制権は米軍にあり、占領終了後、日本の管制能力回復とともに管制権は全面返還されるはずだった。しかし、1959年日米合同委員会で「米軍基地周辺の進入経路を除く」とされ、横田空域と岩国基地周辺の岩国空域は返還されなかった。この「合意」は、国会にも政府全体にも正しく報告されずに交わされた密約だ。憲法体系を浸食するこうした一連の密約を筆者は厳しく批判する。

 米軍が横田空域を手放さない理由は、横田がアジア、西太平洋地域での軍事空輸のハブ基地であるからだ。大型輸送機や空中給油機が連日飛来する横田基地にとって、いつでも自由に使える進入路の確保は不可欠となる。また、有事に、大量の兵員・物資の輸送を迅速に行い、米大使館員やその家族、軍人軍属の移動手段確保の意味もある。

 それだけではない。この広大な空域は、米軍機の低空飛行訓練や対地攻撃訓練など訓練空域確保の意味がある。横田基地に配備された米空軍所属CV22オスプレイの任務は、特殊部隊を夜間低空飛行により敵地に送り込むことだ。同機を使った実戦さながらの低空飛行訓練が、群馬県全域から新潟県の山間部にかけて、昼夜を問わず実施されている。これまでも訓練空域の住民は、爆音、部品落下や、衝撃波でガラスが割れるなど、様々な被害を受けてきた。欠陥機として悪名高いオスプレイの配備は、住民の不安をさらに増大させている。

 日本政府は横田空域の返還を要求していると言いながら、実現したのは自衛隊機の訓練時における管制を日本に任せるという部分的返還だ。自衛隊員が横田基地で自衛隊機の管制業務を行うことは、軍事優先の空域を日本も利用していることに他ならない。

 本書に直接の言及はないが、日本政府が米軍による明らかな主権侵害、憲法体系浸食を認めているのは、日米軍事一体化を通じた戦争国家作りにとってこの軍事優先が都合の良いものとなっているからだ。

 著者は、イタリア、ドイツの地位協定が米軍に国内法遵守を義務づけていることを紹介し、日米合同委員会「合意」という超法規的な密約を許してはならないと強く訴えている。(N)
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