2019年04月05日 1570号

【主要国で唯一の賃金下落/ 誰もが「普通の暮らし」を/全国一律最低賃金1500円以上へ】

 日本の賃金は1997年金融危機以降、ほぼ20年間下がり続けている。それを裏付ける国際的データがある。経済協力開発機構(OECD)は、残業代を含めた民間部門の総収入について働き手1人の1時間あたり賃金を算出している(図)。2017年と97年を比べると、20年間で日本は9%下落した。主要国で唯一のマイナスだ。英国は87%、米国は76%、フランスは66%、ドイツは55%増えた。韓国は2・5倍になった。日本は、「国際競争力の維持」を名目に賃金を抑え続けてきたのだ。



 直近の各国の購買力調整済み最低賃金を見ると、日本は、欧州各国を大幅に下回り、18年1月以降は隣の韓国よりも低くなった 。

 その最低賃金に近い賃金で働く労働者が増えている。最低賃金全国加重平均額の3割増し(1・3倍)未満の労働者の割合は、01年の12%から17年には28%に上昇した。3割増しと言っても時給1102円(17年度)であり、生活保護制度が想定する「最低限度の生活」に届くか届かないかという水準である。

 最低賃金1500円要求が大きな注目を集めるのは、最賃ぎりぎりで働かされる労働者が急速に増えているからだ。この運動は、日本の低賃金構造を変革する力となる。

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 中澤秀一静岡県立大短大部准教授が全国の労働組合の協力を得て15〜17年に実施した最低生計費調査で、「ふつうの暮らし」を実現する費用に地域ごとの差はそれほどないことが明らかになった(表)。



 同調査は、健康で文化的な生活を営むために必要な生活用品やサービスの量を、穀類A`、肉類Bc、シャツC着…と個々に積み上げて生計費を算出するもの。それによると、「ふつうの暮らし」「あたりまえの生活」に必要な費用(25歳男性、賃貸居住で試算)は、税・保険料込みで月額約22万〜24万円。全国どこでも大きな差はなかった。

 これを月の労働時間で割れば必要な時給となる。月150時間換算の数字を見ると、大都市・地方都市とも1500円以上だ。150時間は、政府自身が80年代に労働時間短縮の目標とした年間1800時間に基づく。最低賃金がこの金額に達していれば、「ふつうの暮らし」が可能になる条件のひとつが整うことを意味する。

 現在の最低賃金はその水準に到底及ばない。最低賃金は一刻も早く1500円以上にしなければならない。

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 調査結果はまた大都市の生活費は高いが地方の生活費は安くて済む≠ニいう「常識」を否定する。

 流通が発達した現代では、食料・衣服・日用品の価格はどこでも変わらない。大都市部は住居費が高くなるが、一方交通網が発達しており相対的に交通費が安くなる。反対に、地方都市は住居費は安いが、移動手段として例えば自動車がないと生活が成り立たない。相殺されて、大きな差が見られないのだ。

 ところが、現在の最低賃金制度は、都道府県ごとにA〜Dにランク付けされ、東京(Aランク)などの大都市部は金額が高いのに対し、地方(C、Dランク)は低く設定されている。加えて、Aランクは例年引き上げ額が高いが、C、Dランクでは引き上げ額が抑制されている。その結果、A〜Dランク間の格差は年々拡大するしくみとなっている。

 47都道府県別の格差最賃が、各地域の賃金相場≠ノ影響を及ぼしている。コンビニやファストフードなど全国チェーン店のアルバイト労働者の時給は、ほぼ地域別最賃すれすれの水準に張り付いている。業務内容や販売価格が全国一律にもかかわらず時給だけに格差があるのは、地域別の格差最賃に原因がある。

 地域別最賃は、パート、アルバイトなど非正規労働者の賃金だけでなく、正規労働者の賃金にもリンクしている。最低賃金は一部の労働者の問題ではなく、すべての労働者の課題なのだ。

 どこに住んでいても一律の最低賃金1500円以上を実現しよう。それが日本の低賃金構造を変革し、すべての労働者に「普通の暮らし」を可能とする道である。 
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