2019年04月19日 1572号

【どくしょ室/ODAダムが沈めた村と森 ―コトパンジャン・ダム反対25年の記録/コトパンジャン・ダム被害者住民を支援する会編/緑風出版 本体2400円+税/ODA断罪した原告と支援者】

 コトパンジャン・ダム裁判とは、日本のODA(政府開発援助)によるダム建設で深刻な生活・環境被害を受けた住民らが日本政府、国際協力銀行(当時、JBIC)らを相手取り、損害賠償を求めた裁判。原告は8396人のインドネシア人と動物である。この紹介だけでも困難が浮かび上がる。日本の裁判史上で最大の原告数、全員が外国人、問われた日本の国策という内容からとてつもなく厳しい裁判になるだろう、と予想できるからだ。

 「提訴準備段階から『そんな裁判が成り立つわけない』などと心ない批判が陰に陽にあった」。だが、裁判は2002年9月第1次提訴と2003年3月第2次提訴に始まり、2015年3月最高裁判決まで13年以上も続いた。最高裁は、「インドネシア内政上の問題」とする立場から「申し立て不受理と上告棄却」の不当決定。裁判所は、法廷で徹底的に暴露された被害実態を無視したのだ。

 裁判は終結となったが、争点から見えてくる被害の生々しい様子、裁判闘争を継続する途上で次々と起こる苦難、それを乗り越える弁護団をはじめ関係者の地道な取り組みなどを知ると、裁判が一気に生き生きしたものとして感じられる。本書は、裁判関連の類書とは趣(おもむき)を異にし、多くの人に読んでもらえるものとなっている。

 本書の概要を各章のタイトルから見よう。はじめに「コトパンジャン裁判が示したもの」、第1章「コトパンジャン・ダムと被害の実態」、第2章「裁判では何が問われたのか」、第3章「さまざまな壁を乗り越えてきた裁判支援」、第4章「現地の困窮は引き継がれている」、第5章「ODAの本質とは何か」、第6章「コトパンジャン裁判に関わって」。

 弁護団は、日本政府など被告側の資料も駆使して被害実態を次々と明らかにしていった。現地の事実を積み上げた追及は被告に反論の余地を与えなかった。被告には「内政上の問題」とするしか方策がなかったのだ。被害を認めると今後のODA政策に悪影響が生じることを懸念する日本政府に忖度(そんたく)して、裁判所は不当判決を出した。第1章と第2章がそれを描いている。

 裁判支援には資金と人が不可欠だ。「支援する会」の収入は会費とカンパのみであり、資金集めに常に苦労していた。裁判などに不可欠な通訳を無償で引き受けてくれる人を探す必要もあった。何とかする、何とかなる≠ニの姿勢で乗り切った、とさらりと書かれているが、切羽詰まったことが何度もあったはずだ。

 さらに、現地は現在も困窮状態にあることが調査で示され、今後の課題につながるODAの問題点に言及されている。本書は、空前で絶後ともいえるコトパンジャン・ダム裁判の歴史的意義と闘いの息吹を伝えている。      (I)
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