2019年05月03日・10日 1574号

【低線量被ばくを考えるセミナー/ 被害を認めない国・福島県を批判/健康障害のリスクを市民に知らせる】

 4月6日、第11回「低線量被ばくを考えるセミナー」(主催―大阪小児科学会地域医療委員会)が大阪で開催された。「低線量被ばくのリスク―医療被ばくから東電原発事故による被ばくまで―」と題した崎山比早子(ひさこ)さん(高木学校)の講演を通じ、低線量被ばく問題の重要性が再確認された。医療問題研究会の高松勇さんに報告を寄せてもらった。

 講師の崎山さんは、原発と放射線、放射線が身体に与える影響、医療被ばくのリスクなどを永年にわたり研究してきた。福島事故後、国会の事故調査委員会(国会事故調) 委員も務めていた。


しきい値はない

 講演の眼目は、100_シーベルト以下の低線量であっても健康へのリスクは確実に存在する点。崎山さんは、放射線の被ばく線量と影響(健康障害)の間には直線的な関係が成り立ち、しきい値(注)がないという考え方の重要性を指摘した。これは、福島事故による健康障害を考える上で、現在、国や福島県との大きな対決点だ。

 国は「100_シーベルト以下の低線量被ばくの場合には放射線の発がんリスクは実証されていない。発がん率の増加はあったとしても小さく、自然の発がんの地域差や人種差のなかに埋もれて疫学的に証明するのは困難」(低線量被ばくワーキンググループなど)と低線量被ばくの危険性を否定し、そうした考え方が「国際的」と主張する。「100_シーベルト以下では放射線によるがんの多発は起きない」という「安全神話」によって、本来なすべき、放射線被ばくが避けられない地域からの避難ではなく、年間20_シーベルトまでの地域に住民を帰還させる政策をすすめている。多くの学術団体は、これに異を唱えず容認している。

 避難住民による福島原発損害賠償集団訴訟の1審判決では、ほとんどの裁判所が東京電力と国の責任を認めた。崎山さんも、科学的根拠に基づき避難の権利を正当とする意見書を千葉、京都、東京地裁に提出した。だが、低線量被ばく問題では、一部を除き国側意見に重きを置いた判断が出されているのが現状だ。

世界で実証済み

 崎山さんは、低線量被ばくのリスクは、福島事故以降に発表された世界の多くの疫学調査―英国での小児CT検査と白血病・脳腫瘍の発症、スイスでの自然放射線による小児がんの増加などなど―によって実証されたものであることを紹介。もはや世界的に疑いのない事実であり、放射線防御のために、被ばく線量と影響の間には直線的な関係が成り立つという考え方に基づくことが妥当と強く主張した。これは、原子力推進側である国際放射線防護委員会(ICRP)も採用しているもので、日本の「放射線専門家集団」はこの「基準」すら認めないというきわめて偏った主張を唱えているのだ。

 NPO「3・11甲状腺がん 子ども基金」代表理事としての活動から、甲状腺がん患者のアンケート調査結果にも言及。福島県民健康検討員会の「過剰診断」「放射線の影響とは考えにくい」との見解には批判的意見が多数を占め、甲状腺検査のさらなる拡充や現状維持を望む人が多数であることを示した。

 最後に「低線量放射線リスクを軽視ないし無視する『専門家』から身を守るために、市民は低線量被ばくでもリスクが存在し健康障害が生じる事実を確認し、社会に広め裁判でも勝っていこう」と訴え、参加者に共感が広がった。

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 私たち医療問題研究会は、福島事故後の2011年11月、『低線量・内部被曝の危険性―その医学的根拠―』(耕文社)、2015年には『福島で進行する低線量・内部被ばく 甲状腺がん異常多発とこれからの広範な障害の増加を考える』(同)を発行し、警鐘を鳴らしてきた。

 小児科学会でも、毎年「こどもたちを放射線障害から守る全国小児科医の集い」を開催。放射線被ばくの健康被害に関して150_シーベルト以下の被ばく量では人体影響がない≠ニする学会の「見解」を事実上撤回させている。

 低線量被ばくの危険性を訴えてさらに連帯していきたいと考えている。

(注)しきい値 ある値以上で影響が現れ、それ以下では影響がない境界の値をしきい値という。放射線影響の分野では、それらの影響が現れる最小の線量が存在するという考え方で、放射線の健康影響を過少評価させるもの。

 
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