2019年05月03日・10日 1574号

【「維新圧勝」をどうみるか/「大阪の特殊事情」では片付けられない/変革の政策を人びとは求めている】

 大阪府知事と市長のダブル選挙は「大阪都構想」を掲げる大阪維新の会候補の圧勝に終わった。大阪の各自治体議会選挙や首長選挙でも維新は大きく勢力を伸ばした。橋下徹という人気者が去り、全国的には「賞味期限切れ」の存在と化した維新が、大阪ではなぜこんなに支持されるのか。

まさにどん底状態

 文芸評論家の斎藤美奈子が東京新聞の連載コラム(4/10)で、大阪の「幸福度」がとても低いことについて書いていた。幸福度とは人口動態や一人あたりの所得、財政健全度などの基本指標に、「健康」「文化」「仕事」「生活」「教育」の5分野のデータを加えて算出した暮らしやすさの指標である。

 原典をあたってみた。日本総合研究所が隔年で発表している『全47都道府県幸福度ランキング』(東洋経済新報社より刊行)である。最も新しい2018年のランキングをみると大阪府は43位。ちなみに1位は福井県で、東京都は2位。大阪府と同規模の人口の神奈川県は16位、愛知県は7位であった。

 幸福度ランキングが2012年に始まって以来、大阪府は42位、43位、44位、43位と低迷が続く。政令指定都市のランキングではどうか。大阪市は2回続けて20位。つまり連続最下位という惨憺(さんたん)たる結果であった。

 分野別にみると、府・市ともに「文化」以外は下位に沈んでいる。たとえば「仕事」分野で大阪府は46位だった。「正規雇用者比率」62・4%はワースト3位。「大卒者進路未定者率」10・6%はワースト5位。「若者完全失業率」7%はワースト7位。若者を中心に働く者の環境が厳しいことがわかる。

 「生活」分野は府が40位で市は最下位。「生活保護受給率」が府・市ともワースト1位になるなど深刻な貧困問題を抱えている。「健康」分野は府が39位、市は最下位。仕事も生活も健康も良くないとなれば、当然「悩みやストレスのある者の率」も高くなる。府は50・3%でワースト4位、市は54・1%でまたまた最下位であった。

「再生」への期待感

 斎藤はコラムをこうまとめている。「大阪都構想を実現させれば、それ(雇用や生活の問題)が解消するのだろうか。あるいは大阪万博やカジノ誘致で問題が解決する? それより目の前の課題が先決じゃないかと思ってしまう」。まったくそのとおり。都構想に固執し政争に明け暮れる維新は、大阪の人びとから見放されてもいいはずだ。

 しかし、現実には逆の現象が起きている。人びとは現状があまりにひどいがゆえに、既存システムのリセットを掲げる維新に「大阪再生」の切なる願いを託してしまうのではないだろうか。

 維新は「大阪」の利益代表者であるとの政党イメージを獲得し、有権者の期待感を集めている―。善教将大(ぜんきょうまさひろ)・関西学院大学准教授はこう指摘する(『維新支持の分析/ポピュリズムか、有権者の合理性か』有斐閣)。また、「独裁者が無知な大衆を煽動した」式のポピュリズム論では維新支持者の動向を説明できないとも強調する。事実、橋下徹というペテンの天才が表舞台から去った後も維新は大阪の選挙で勝ち続けている。

 そもそも大阪の有権者は決して「無知な大衆」ではない。都構想を否決した4年前の住民投票がその証拠だ。当時は市長だった橋下が先頭に立ち、デマ宣伝の大攻勢をかけた。それでも人びとは大阪市を解体する乱暴な提案に危うさを感じ、ギリギリのところで踏みとどまった。

 問題は、都構想に反対した反維新陣営が大阪の窮状を打開する具体的な政策を打ち出せなかったことにある。維新が都構想を「大阪再生の唯一の方法」と宣伝している以上、その正体(大規模開発優先行政の焼き直し)を批判するだけではなく、市民本位の市政改革案及び経済政策を示さなければならなかった。

 それができなかった弱点を維新は徹底してついてきた。橋下「引退」にともなう2015年11月のダブル選挙では「過去に戻すのか、前に進めるのか」をスローガンに掲げて完勝。そして今回も「大阪の成長を止めるな」と訴え、圧勝したのである。

アンチだけでは限界

 世の人びとは大阪における維新の一人勝ちに心底あきれているかもしれない。しかし、同じことは全国で起きている。生活悪化・貧困化が進んでいるにもかかわらず、アベノミクスと称する経済政策の成果を誇る安倍政権が長期政権を築いているではないか。

 安倍晋三首相はアベノミクスの成果について、「(大事なのは)やってる感だから、成功とか不成功は関係ない」と語ったという。アベ政治の本質を自ら表現した言葉といえる。「現状打破のために頑張っている」との印象を人びとに与え続けていれば、期待感にもとづく支持を維持できると言いたいのだ。

 ふざけた話だが、「やってる感」演出に長(た)けた権力者をアンチだけで追い詰めるのは難しい。本当に社会を変え、暮らしを良くする政策を提案できなければ、「しょせんは何でも反対」「足引っ張り」だと思われてしまう。

 いま米国では、DSA(アメリカ民主主義的社会主義者)が急速に支持者を増やしている。市民全員を対象にした保険医療サービスの創出や国公立大学の無償化、富裕層への課税強化といった政策への賛同が若者を中心に広がり、メンバー2人が昨年の中間選挙で下院議員に当選した。

 このような取り組みに真摯に学び、実践していかねばならない。世の人びとは「反安倍」「反維新」のその先を求めているのである。 (M)



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