2019年05月17日 1575号

【朝鮮半島での軍事挑発合戦/非核化と制裁解除を段階的に/好戦勢力を封じる市民の闘いを】

 東アジア和平への歩みを後戻りさせようとする動きが起こっている。2月の第2回米朝首脳会談後、米韓合同軍事演習が再開され、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は新兵器開発実験(訓練)を始めた。軍事挑発合戦は戦争の危機を高めるだけだ。米朝間で問題となっている「完全非核化」と「体制保証」。相互信頼を醸成する段階的措置を積み上げる以外に解決の道はない。

軍事挑発こそ障害

 朝鮮中央通信は5月4日、「金正恩(キムジョンウン)国務委員長が日本海上で火力打撃訓練を指導した」と報じた。「大口径の長距離放射砲(多連装ロケット砲)や戦術誘導兵器の運用能力を点検した」としている。4月17日に発射実験を公表した新型誘導兵器と思われる。

 一方米韓は合同軍事演習「フォールイーグル」「キーリゾルブ」「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」の廃止発表直後、3〜4月にかけ「同盟19―1」を実施、8月には「同盟19―2」を計画している。韓国国防部は今後5年間で、270兆7000億ウォン(約27兆円)の軍事費を投じる中期計画を実行している。

 朝鮮は、規模を縮小したとはいえ名前を変えただけの軍事演習や韓国の軍拡に強く反発している。

 朝鮮の訓練は、この米韓軍事演習への対抗措置とともに、進展しない米朝交渉への牽制とみられている。だが、軍事挑発合戦が非核化・和平交渉を先に進めることはない。

 合意を得られなかった第2回米朝首脳会談で明らかになったことは、朝鮮の「段階的非核化」案に対する米国の「完全非核化」要求のハードルの高さだった。朝鮮は、その後のロシアとの首脳会談(4/25)で国連安保理の経済制裁解除や経済支援を求めた。プーチン大統領は会談後、「朝鮮は体制保証を望んでいる」と語った。朝鮮中央通信が今回の訓練を「わが国の自主権を害そうとすれば容赦なく反撃する軍の意志を誇示した」と報じたのと符合する。

 朝鮮が「完全非核化」に踏み出せないのは、米国による政権転覆策動に恐れを抱いているからだ。

体制転覆の妄動

 金正恩委員長が「体制保証」をより強く望む背景には、目の前で進行するベネズエラのクーデター策動がある。4月30日、反米政権マドゥロ大統領を追放しようと、暫定大統領を自称する国会議長グアイドが軍・市民に蜂起を呼びかけた。反政府運動の中心人物グアイドは米国務省の資金で育成された右派学生グループの一人。「政権転覆マニュアル」で訓練を受けていたという(月刊誌『選択』4月号)。

 朝鮮にとって気になるのは2月22日、在スペイン朝鮮大使館からコンピューターなどが奪われる事件が発生したことだ。「自由朝鮮」を名乗るグループが犯行声明を出した。このグループは「金正恩独裁体制打倒、臨時政府樹立」を宣言しており、事件には、CIA(米中央情報局)が関与していると地元紙が報じている(3/13朝日)。暗殺された金正男(キムジョンナム)の息子ハンソルを米国内で保護しているグループとも言われている。金正恩委員長にとって、ベネズエラの事態は他人事ではない。

 だが米国の対朝鮮政策は揺れている。昨年、米朝会談が初めて実現したのは、最大の障害だった「完全非核化」要求を留保したからだ。第2回は「完全非核化」要求が復活、合意は見送られた。元CIA長官のポンぺオ国務長官、親イスラエル派のボルトン国家安保担当大統領補佐官が「決裂」のカードをトランプにひかせた(3/20中央日報)。この両者は、ベネズエラに対しても「軍事を含めてすべての選択肢が机上にある」と軍事介入を煽る役割に徹している。朝鮮に対しても同じ構えだ。

 今トランプにとって最大の関心事は来年の大統領選だ。ロシアゲート事件捜査への司法介入など一連のスキャンダルを打ち消し、目先の票をかき集めるのに必死になっている。軍事緊張を高めるボルトンらを使い、「強い大統領」を演出しようとしているのだ。「完全非核化」を再度掲げ直した理由でもある。

経済制裁解除へ

 金正恩委員長にとって「体制保証」と同等な意味を持つのが経済制裁解除だ。5月3日、国連世界食糧計画(WFP)と国連食糧農業機関(FAO)は、朝鮮で数百万人に飢餓状態が迫っていると発表した。猛暑や洪水により農産物の収穫量が昨年、過去10年で最低水準となった。すでに人口の約40%、1千万人が食料不足に陥っており、国際的な支援が必要だという。

 金正恩政権は軍事と経済の「並進路線」から経済重視へと軸足を移してきた。それには南北会談、米朝会談実現による緊張緩和とともに、食糧不足の国内事情があった。

 ベネズエラの経済危機は石油価格下落による減収に加え、米国等の経済制裁によって引き起こされた。朝鮮でも不作と外貨不足で、政権の不安定要素は増すばかりだ。朝鮮民衆の生命を危険にさらす経済制裁を解除し、非核化に向けた段階を一歩一歩進める以外に道はない。

 金正恩委員長は、4月12日の最高人民会議で3回目の米朝首脳会談について「年末まで待つ」姿勢を明らかにした。トランプ大統領も13日「核兵器と制裁がなくなり、北朝鮮が世界有数の成功した国になる日を心待ちにする! その日は近いかもしれない」と応じている。口先だけにさせてはならない。

 プーチン大統領は6か国協議再開に言及した。中国も「米朝をはじめ政治的対話による解決」の姿勢を見せている。韓国文在寅(ムンジェイン)大統領は「3回目の米朝会談実現」への努力を表明。安倍晋三首相は拉致問題解決のためとして「金委員長に直接会う」と繰り返している。関係国の姿勢は必ずしも一様ではないが、平和を求める東アジアの市民が圧力をかけ、非核化と制裁解除の現実的な策へと動かしていく必要がある。

 東アジアの和平が世界の平和をつくること、それを妨害するものは市民の抗議の的となることを思い知らさなければならない。



ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS