2019年05月17日 1575号

【どくしょ室/東京貧困女子。 彼女たちはなぜ躓いたのか/中村淳彦著 東洋経済新報社 本体1500円+税/「もう生きようがない」貧困の現実】

 奨学金という名の借金を背負わされ、カラダを売っている女子大生。卒業と同時に1千万円以上の負債を背負うことになる。「10年後はたぶん自殺していると思います。幸せな自分は当然、生きている自分の姿も想像できない」

 「派遣」の仕事では生活費が足りず、性風俗店で働く30歳の女性。社会人になってからずっと「派遣」だった。「いまの日本は女性が単身で自立して生きていける社会とはとても思えません」と訴える。

 非正規職で週5日フルに働いても生活保護基準を下回る収入しか得られないシングルマザー。「子どもを抱えて離婚したら、もう終わり」。毎日食べさせるだけで精一杯で子どもの勉強にまで手が回らない。貧困が次世代に連鎖するのは当たり前だと嘆く…。

 本書は、東洋経済オンラインで閲覧数1億回を突破した連載「貧困に喘(あえ)ぐ女性の現実」を書籍化したものだ。女性、特に東京とその近郊で暮らす単身女性とシングルマザーの貧困問題を考えるために、「個人の物語」に焦点を当てて紹介している。

 著者はフリーライターとして、性風俗業界の取材を20年以上続けてきた。業界内の醜い争いに嫌気がさし、介護事業所を起業したこともあったが、介護の世界は「それまで見たこともないような困窮した人々の巣窟」だったという。

 貧困女性が語る「過酷な物語」の点と点を線で結んでいくと、小泉政権から本格的に始まった新自由主義路線が浮かび上がると著者は言う。介護は真っ先に市場化のターゲットにされた分野だ。「ありがとうが報酬」を信じ込まされ、低賃金で限界まで働く「奴隷」が大量生産されていた。

 企業に都合のいい「非正規」という名の使い捨て雇用はあっという間に広がり、自治体までが積極採用した。現在は女性の雇用者の4割までになってしまった。大学奨学金は金融ビジネスと化し、逃げ場のない貧困世帯の子どもに自己破産相当の負債を背負わせて社会に送り出している。

 著者によれば、風俗嬢の8〜9割は正業を持つ女性で、その多くは平均的な単身世帯の非正規労働者だという。平均的な賃金では生活費が足りず風俗とのダブルワークをする。あるいは、現役女子大生が学生生活を維持する最後の手段として中年客に体を差し出す。これが「平成ありがとう。ようこそ令和」に浮かれるニッポンの現実だ。

 貧困女性たちの「過酷な物語」を綴ってきた著者は、「これまで女性たちが語ってきた苦しさは、制度設計して統治する側から眺めれば計算どおりという可能性さえある」と記している。この指摘は正しい。貧困は自己責任ではない。「次々とカラダを売る世界に女性が流れている現状は、個人というより、もう国の問題」なのだ。   (O)
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