2019年05月24日 1576号

【「居住貧困」問題の解決をめざして/貧困運動から地域運動へ/韓国市民の実践に学ぶ/住まいは基本的人権だ】

 日本の住宅政策は中間層の持ち家取得支援が中心で、民間賃貸住宅入居者への支援に乏しく、公営住宅も減少傾向にある。若者や高齢者、女性の「居住貧困」は深刻だ。

 4月26日都内で開かれた「日韓 居住貧困実践交流シンポジウム」は、韓国市民の取り組みに学び、“ハウジングファースト”と“貧困運動から地域運動へ”の視点の重要性を共有する場となった。(主催―反貧困ネットワーク、希望連帯)

 反貧困ネット代表世話人の宇都宮健児さんは住宅問題の基本視点を提起する。「日本は経済大国と言うが、仕事を失うと住まいまで失う貧困社会だ。住まいは基本的人権という位置づけが弱い。都営住宅はこの20年間建設されていない。ソウル市では市長選の公約に掲げられた8万戸の賃貸住宅が実現した。市民の運動で変えられる」

 日本でも、行政や支援者が居住の可否を決めるこれまでの支援のあり方を脱却し、「住まいは人権である」との基本に立って「家は無条件で提供」「本人が決定」「支援者は生活支援を提供」する“ハウジングファースト”が注目されるようになってきた。

 自立生活サポートセンター・もやい設立者の稲葉剛さんは「生活保護受給者は95年88万人から17年212万に増加。しかし、その手前にいる貧困層を支援する生活困窮者自立支援制度には、経済給付や居住支援がない。『居住福祉』の視点がないのが日本の政策だ」と批判。そのため、「屋根はあるが家がない」ネットカフェや「家はあるが居住権が侵害される」脱法ハウスなど、「ハウジングプア」問題が今も続く。一方、市民団体による夜回りや炊き出し、部屋探し支援、確保した空き室への入居、生活保護申請同行、訪問看護、修繕・清掃といった実践例もある。「まず施設に入れ、そこから民間アパートへという流れを変え、最初から地域に住んでもらい、入居者の生活を援助していくシステムが必要」と強調した。

 ソウル市冠岳(クァナッ)区住民連帯の姜乃榮(カンネヨン)さんは「住居の提供だけでなく、コミュニティー・医療・就労など総合的な施策が必要」として、申請主義を克服するチャットン事業(窓口で待つのではなく訪ねていく出前型福祉サービス)を紹介。「ソウル市は福祉職員を倍増し、担当公務員と看護師がペアで家庭訪問する。しかし、地域の住民ネットワークとの連携はまだ弱い」という。

 とはいえ、広津(クァンジン)区では、広津住居福祉ネットワークが不動産業者を通さずにビルや空き家などを購入し、安く住まわせるとともに、そこを担保に次々と住宅を広げていく“市民資産化運動”が始まっている。福祉・医療サービス付きの共同体住宅を障がい者団体や高齢者団体と共同で推進する動きもある。行政も、空家をデータベース化し、改修・改築費用を補助したり、ソウル市が出資する住宅都市基金が土地をプールし、需要に応じて住宅を建設したりといった協力を行う。

 「権利としての福祉」をベースに置くソウル市と比べ、公営住宅すら満足に保障しない日本の住宅政策は相当後れを取っている。

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