2019年05月31日 1577号

【日朝首脳会談へ安倍方針転換/無条件対話を即時実行せよ/拉致・戦後補償解決、国交正常化へ】

 安倍晋三首相は、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の金正恩(キムジョンウン)国務委員長と無条件で会談すると表明した。朝鮮が「弾道ミサイルを発射」と断定(5/10)してからも、その方針を変えていない。明らかに「対話より圧力」方針からの転換だ。どのような思惑があるにせよ「対話による解決」は当然のことであり、すぐさま実現に動くべきだ。決してポーズだけにさせてはならないし、後戻りさせてもならない。

外交成果なしの焦り

 「北朝鮮による短距離弾道ミサイル発射でも変わらない」。安倍首相は5月16日の衆院本会議で、金正恩委員長と条件をつけずに会談する方針を改めて明言した。以前なら「北の脅威」をあおり、支持率アップに利用するところだが、今回の弾道ミサイルには「我が国の安全保障に影響があるような事態は確認されていない」と平静を装った。

 ここにきて、方針を一転させたのは、「北方領土」問題で何の成果も手にできなかったことが大きい。昨年9月、東方経済フォーラムの場でプーチン大統領に「無条件で平和条約を」と言われた安倍は、何らかの成果を手にできると計算していたはずだ。ところが11月の首脳会談では何の成果も得られなかった。

 外交を売りにしてきた安倍政権は「手ぶら」で参院選に望むことになる。その上、露朝首脳会談(4/25)、中露首脳会談(4/26)が相次いで行なわれた。関係6か国の動きに注目が集まる中、朝鮮との首脳会談を唯一持てていない日本政府の孤立は誰の目にも明らかになった。

 安倍は、中露首脳会談と同じ日に日米首脳会談に臨んだ。安倍の方針転換はこの場で確認された。安倍は会談後「今後の米朝プロセスを展望し、進め方について突っ込んだやりとりをした」と述べている。これは、朝鮮との交渉で「適度の緊張」を維持する役割に米国内の好戦勢力だけでなく、日本政府も加わることをトランプ大統領に求められたのだ。「今度はシンゾウの番だ」。安倍にとってもプラスになる。米朝間をとりもつ「重要人物」で売れると踏んだに違いない。

 「無条件会談」は帰国後の産経新聞とのインタビュー(5/1)で表明された。支持基盤である右派勢力に方針転換を受け入れさせるにはふさわしい媒体だ。

政治利用に徹した安倍

 安倍はこれまで「拉致問題の進展がなければ会っても仕方がない」と条件を付けてきた。「無条件」とは、拉致問題の進展がなくても「会う」ことになる。ごまかしは許されない。

 拉致問題の経過をたどれば、安倍は「解決」より政治利用に熱心だった。

 拉致問題が大きく動いたのは、2002年9月、小泉純一郎首相が訪朝し、日朝平壌(ピョンヤン)宣言をまとめた時だ。当時の金正日(キムジョンイル)総書記は拉致を認め、謝罪した。10月には5人が帰国し、04年、2回目の小泉訪朝で家族を解放させた。日本政府が示した17人の拉致被害者のうち残る12人について、朝鮮は8人死亡、4人は記録なしと回答。日本政府はそれを認めず再調査を要求、協議が続けられたが、朝鮮の姿勢は変わらなかった。

 小泉訪朝に副官房長官として随行した安倍は、政権に就いた後、「朝鮮の脅威」をあおるだけで、経済制裁以外にほとんど何もしなかった。そんな中、14年5月、ストックホルムで日朝協議が開催され、「再調査と制裁一部解除」で合意した。「解決済み」とする朝鮮が「再調査に応じた」と評価する報道もされた。

 実は、ストックホルム合意を前後して、朝鮮は日本政府の拉致被害者リストにはなかった2名の日本人生存者の名を伝えていたことが暴露された(2/15共同)。安倍政権はその事実を隠し、「ゼロ回答の北朝鮮が悪い」とキャンペーンを張ってきたのだ。拉致問題解決への道筋をつけず、いつまでも朝鮮敵視に利用しようとする魂胆が透けて見える。

相互信頼と国交正常化へ

 安倍は「拉致問題を解決することは、まず日朝平壌宣言に則って国交正常化することだ」と産経のインタビューで語った。「平壌宣言に則って」との発言は、これまでも何度も繰り返している。だが、それは口先だけのアリバイ工作にすぎなかった。

 平壌宣言は、相互信頼に基づく諸問題の解決を基本とし、拉致問題の他、日本の植民地支配の清算を前提に国交正常化をはかることを明記している。「拉致問題の解決なくしては国交正常化などもってのほか」との右派勢力の立場をとってきた安倍が、国交正常化を優先して協議を進めるという。もちろん選挙を前にした「やってる感」の演出にとどまる可能性は残る。

 朝鮮は安倍の「無条件」発言に対し、「日本がまず、人的往来を認めるべき」(5/8東京)と反応している。日本政府は06年、朝鮮が初めて核実験を行ったことに対し、朝鮮籍の人物の入国を原則禁止する独自制裁措置をとった。14年7月、朝鮮が拉致問題の調査委員会を設置したことを受け解除。しかし、16年弾道ミサイル実験で再び入国禁止を行っている。

 信頼構築の第一歩として「人的交流を」との朝鮮からの要求に対し、いまのところ日本政府は応えていない。

 安倍が願う拉致問題の解決は、拉致被害者と手をつないで、タラップを降りる「見せ場」をつくることだ。「帰国者ゼロ」では困るのだ。

 拉致問題を安倍の政治利用に任せてはならない。無条件に向き合うとは、文字通り、事実に基づき交渉相手と誠実に協議し、戦後補償を含む過去のすべての諸問題の解決を図ることに他ならない。

 韓国には「徴用工問題」などで全く誠意を示さない姿勢のまま、朝鮮との問題が解決できるなどありえないことだ。

 東アジアの平和のみならず、世界の平和が軍拡政策の放棄と戦後処理にかかっている。国際紛争を解決する手段とし武力による威嚇、行使はしてはならない。力ずくで解決できるはずがない。経済制裁で脅して、言うことを聞かせることなどあってはならない。

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